地元遺産へ誘う

【演出】「地域の宝」再生のヒント

 建造物から人々の記憶まで有形無形の地元遺産はある世代までは大切なものと感じられても、次世代にまでは伝わりにくかったりする。最新のデジタル技術を駆使したり、アナログな演劇的演出と連携したり…とユニークな取り組みから継承へのヒントを探った。

持ち寄った昔の写真を見ながら思い出話をする地域の人たちと市原幹也さん(左から2人目)。自分の親族を見つけると、名前入りのふせんを貼っていく人もいる

持ち寄った昔の写真を見ながら思い出話をする地域の人たちと市原幹也さん(左から2人目)。
自分の親族を見つけると、名前入りのふせんを
貼っていく人もいる

賑わう鉄都 写真で思い出す
-劇団と連携したまちづくり 枝光本町商店街-
 煙を上げる煙突を背に、おかっぱや丸刈りの児童たちが緊張した面持ちで写真に納まっている。「私はどこかな…おったおった!」「道まで煙で真っ黒になってなあ」。写真を引き金に、眠っていた「鉄のまち」の記憶がよみがえる。
 かつて八幡製鉄所のお膝元として栄えた北九州市八幡東区の枝光本町商店街。一角の空き店舗に昨秋、「枝光写真館」が出現した。 本当の写真館ではない。八幡製鉄所の全景、地元・枝光北中の運動会など、地域の人が昔の写真を持ち寄る仕組み。2009年から商店街を拠点とする劇団「のこされ劇場≡」による「演劇作品」だ。主宰の市原幹也さん(35)には「写真を持ち寄る写真館が現れ、出入りする地域の人が思い出を語る」ことも立派な演劇的な演出なのだ。演劇に縁のなかった商店街の人たちがなぜ受け入れたのか。
 新日鉄八幡製鉄所の本事務所が枝光から同市戸畑区へ移転した1990年以降、商店街の衰退は止まらない。店舗減少以上に危機感を抱くのは、800年の歴史がある枝光八幡宮の門前町としての衰え。自治区会役員の水摩〓(みずまひさし)さん(72)は「枝光の住人同士の精神的なつながりが必要。皆に氏子の自覚を持ってもらいたい」と市原さんにその束ね役としての期待を寄せる。
 店先で遊び回る子ども、それを見守るお互い顔見知りの商店主と買い物客…商店街のにぎわいの記憶は、かつてあった地縁的つながりの記憶と重なる。そうしたつながりは社会から孤立しないための重要な機能ではなかったか、と市原さんは考える。当時の記憶は地域の遺産であり、記憶再生は機能の再生への第一歩なのだ。 (河津由紀子)

※本文中の〓は「土」へんに「壽」

1938年、原爆被災以前の旧浦上天主堂

1938年、原爆被災以前の旧浦上天主堂

(上)横浜市のドックヤードを活用したプロジェクション・マッピング。週末には多くの人たちでにぎわう

横浜市のドックヤードを活用した
プロジェクション・マッピング。週末には
多くの人たちでにぎわう

(下)昼間のドックヤードガーデン。階段状の石の壁面がスクリーンとなる

昼間のドックヤードガーデン。階段状の石の壁面がスクリーンとなる

「被爆前の姿」壁面に映す
-プロジェクション・マッピング計画 浦上天主堂-
 近年、文化財の活用法として注目されるのが、建物の壁面などに映像を立体的に映す空間演出「プロジェクション・マッピング(PM)」だ。長崎市では被爆70年の来年、原爆で倒壊し再建された浦上天主堂の壁面に、PMで被爆前後の旧天主堂の画像を映す計画が進められている。
 その中心は、長崎県諫早市出身で被爆3世の酒井一吉さん(28)=東京都。実体験がなく、祖父の世代の思いを継承していくこととは距離を置いてきたが、2011年の福島第1原発の事故を機に故郷の問題と向き合うことを決意。「何ができるか」を考える中でPMに巡り合った。
 「建物の来歴を表現するのに魅力的な手段。長崎の象徴的な被爆遺構だった旧浦上天主堂の姿を再現することで、世代を超えて同じ時間をあらためて共有できるのではないかと思った」
 文化財は法的規制で現状に変更を加えられないことが多い。その点、「PMは文化財への負荷は少なく派手な演出ができることが魅力」と、三菱地所ビルマネジメント・プロモーション事業部主事の小室智郁夫さん(43)は説明する。横浜市の国内最古の石造りドックヤード「横浜船渠(せんきょ)」を活用した「ドックヤードガーデン」でPM上映を主催。昨夏から、船形に弧を描く石壁(高さ約10メートル、幅約29メートル)に、横浜の歴史や現在、未来の姿を表現した作品など時期によって内容を替えて上映している。
 ヤードは横浜ランドマークタワー直下にあり、ビル風が悩みの種。ステージを使った催しを企画しようにも、機材を安全に床や壁へ固定するために貴重な文化財に穴を開けるような工事は、ほぼ不可能だった。その点、PMは投影用プロジェクターの固定だけでよく、小室さんは「加えて180度に投影すれば迫力満点。すり鉢状のヤードの特徴を生かせる」と話す。
 PMの課題の一つは、費用だ。機材レンタルだけで1回当たり1千万円前後かかる。九州でもJR門司港駅など文化財でのPM活用事例は増えたが、1日限りの単発で終わっているのが実情。文化財保存へのデジタル技術応用に詳しい九州大の金大雄(キムデウン)准教授は「自治体で機材を購入して各文化財向けに安く貸し出すのも一つの手。同じような映像を流しても飽きられるので、自治体などで作品を公募し、各文化財で共有できるようにすれば活性化するだろう」と提案する。 (内門博)

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