平野啓一郎 「本心」 連載第35回 第三章 再会 文化 10/14 5:00 ソファを勧められ、僕はアイスコーヒーを注文した。テーブルの上には、既にヘッドセットが準備されている。僕が自宅に所有しているもの...
平野啓一郎 「本心」 連載第34回 第三章 再会 文化 10/13 5:00 結局、僕は注文通りに応じたものの、普段の仕事の方が遙（はる）かに楽だった。肉体的な負担と、精神的な負担とは、どちらが重いのだろうかと、不毛な設定の問いに、何度となく足をす...
平野啓一郎 「本心」 連載第33回 第三章 再会 文化 10/12 5:00 介添えなしで、視覚障害者向けのナビゲーション・アプリを使って町を歩いてみたいが、まだ不安なので、遠隔で見守っていてほしいというのだった。緊急の危険が迫っている時や、どうし...
平野啓一郎 「本心」 連載第32回 第三章 再会 文化 10/11 5:00 結局、真に「幸福」な一握りの人間にとっては、その他の大半の人間が、どうにか工夫し、本心を偽りながらでも、自分は幸福だ！と信じてくれた方が、ありがたいに違いない。その方が、...
【俵万智の一首一会】非正規の翼 弱者に寄り添いエール 連載 10/10 6:00 牛丼屋頑張っているきみがいてきみの頑張り時給以上だ萩原慎一郎優しい男だな、と思う。牛丼屋といえば、時間の余裕も、お金の余裕もあまりない時に行くところ。そこで、アルバイト店...
平野啓一郎 「本心」 連載第31回 第三章 再会 文化 10/10 5:00 僕の記憶の立ち上がりは、ほとんど、現実を最後まで拒否していたかのように遅かった。小学校に入学する以前のことを、僕は何も覚えていない。父は、母はともかく、僕にさえ、その後、...
平野啓一郎 「本心」 連載第30回 第三章 再会 文化 10/9 5:00 所詮（しょせん）は、本物の母を再現できるわけではない。期待しているのは、ただ、僕自身の孤独が慰められることだった。実際、僕は母のVF（ヴァーチャル・フィギュア）のモデルを...
平野啓一郎 「本心」 連載第29回 第三章 再会 文化 10/8 5:00 カメラがとらえた母の表情は、次にアルバムの中で僕と再会する時には、明るく朗らかに微笑（ほほえ）み直すのだった。幸福に満ちた様子で。――その写真の集積が、記憶の中の母の表情...
平野啓一郎 「本心」 連載第28回 第三章 再会 文化 10/7 5:00 野崎に渡すために、メールを確認しながら、それでも、死の前の数ヶ月分は目を通した。しかし、ジャンク・メールに紛れたそれらの大半は、他愛もない連絡事項ばかりで、意味のある内容...
平野啓一郎 「本心」 連載第27回 第三章 再会 文化 10/6 5:00 母に対しては、幾つもの後悔がある。そのうちの一つは、VF（ヴァーチャル・フィギュア）によっても決して満たされない。僕は大人になって以来――いや、もっと前からだろう――母の...
平野啓一郎 「本心」 連載第26回 第二章 告白 文化 10/5 5:00 僕が、悪かったのだろうか？責めるつもりではなく、ただ、母の本心が知りたかっただけだった。母は、僕から、人生の最後の希望を奪われてしまった。僕は、母の安楽死を絶対に認めなか...
平野啓一郎 「本心」 連載第25回 第二章 告白 文化 10/4 5:00 ＜あらすじ＞石川朔也はリアル・アバターという職業を持つ二十九歳。特別な装置を着けて依頼者の「分身」として外出する。朔也は半年前に亡くなった母を仮想空間の中に再現するVF（...
平野啓一郎 「本心」 連載第24回 第二章 告白 文化 10/3 5:00 若松さんは、また、「ああ、……」と嘆息を漏らしたきり、無言になった。その静寂の向こうで、僕は彼が泣いているのを感じ、モニターの小窓を見ないようにした。風が、潮でべたついた...
平野啓一郎 「本心」 連載第23回 第二章 告白 文化 10/2 5:00 ホテルまでの一本道は、急勾配だった。若松さんは、「きついでしょう？冬はこの辺は真っ白ですよ。車も、4WDじゃないとね。」と、僕に初めて語りかけた。そういう時は、会話に応じ...
平野啓一郎 「本心」 連載第22回 第二章 告白 文化 10/1 7:00 岸壁のホテルに行く前に、僕は磯辺に向かった。船着き場があり、ニシンの焼き魚定食やいくら丼を出すような店が軒を連ねている。駐車場のアスファルトの先は、僕の足よりも少し大きい...
「嫌韓」の背景 中高年男性の不安、日本の存在感低下 反映 必要... 文化 10/1 3:00 『週刊ポスト』9月13日号の見出しが大きな問題になった。表紙には「『嫌韓』ではなく『断韓』だ厄介な隣人にサヨウナラ韓国なんて要らない」「『10人に1人は治療が必要』（大韓...
阿部和重「オーガ（ニ）ズム」／古川真人「背高泡立草」／太田靖久... 文化 10/1 3:00 阿部和重の最新長編『Orga（ni）sm［オーガ（ニ）ズム］』の刊行を記念して、同作の連載誌だった「文學界」10月号が特集を組んでいる。『オーガ（ニ）ズム』は、一九九九年...
平野啓一郎 「本心」 連載第21回 第二章 告白 文化 9/30 7:00 僕は、駅から彼と一体化していたが、あの病床の老人も、若い頃はいつもここを上り下りしていたのだ、というようなことを、少し息を切らしながら考えた。平日の白昼は、見慣れぬ余所者...
平野啓一郎 「本心」 連載第20回 第二章 告白 文化 9/29 7:00 僕は明らかに、母の言葉を理解できていなかったが、体の方は既に恐慌に陥っていた。きっと、母と僕の体は、その時一つだったから。……後ろに続いていた家族連れに声を掛けられ、僕は...
平野啓一郎 「本心」 連載第19回 第二章 告白 文化 9/28 7:00 水は、見上げるような高さの緑に覆われた岩間から、宙に向けて勢い良く吹き出していた。ガラスの器に落ちてゆくかき氷のように白いその滝は、途中に迫り出した岩にぶつかり、更（さら...
