メッセンジャーの際どい内面 砂川文次『ブラックボックス』 文化 4/24 17:30 酒井信さん寄稿自転車に乗って移動しているような身体感覚を与える小説であり、暴力的な衝動を持て余しながら生きている若者の精神状態...
中二病者のための恋愛読本 綿矢りさ『勝手にふるえてろ』 文化 4/17 17:30 酒井信さん寄稿女性の「中二病」を題材としたユーモラスで、恐ろしい作品である。綿矢りさは、社会に適応しているように見えて、社会から逸脱した欲望を持て余している女性を描くのが...
人生哲学に満ちた「私小説」 田辺聖子『姥ざかり』 文化 4/10 17:30 酒井信さん寄稿田辺聖子は大阪市の天満の育ちで、大阪弁を用いた恋愛小説の名手として知られる。作中に登場する女性たちのように、社会人として生計を立てながら、大阪文学学校で才能...
群れたがる人の心の盲点 村上春樹『女のいない男たち』 文化 4/3 17:30 酒井信さん寄稿本文中の言葉を借りれば、「人生とはそんなつるっとした、ひっかかりのない、心地よいものであってええのんか、みたいな不安」を描いた短編集である。映画化され、アカ...
父権なき父描く復讐小説 金城一紀『フライ,ダディ,フライ』 文化 3/27 17:30 酒井信さん寄稿「高いところへは他人によって運ばれてはならない。ひとの背中や頭に乗ってはならない」というニーチェの言葉が印象に残る作品である。一般論として、人々は誰かの助力...
パンチの効いた青春小説 金城一紀『GO』 文化 3/20 17:30 酒井信さん寄稿自己の経験を踏まえ、差別を笑いへと変えていく、奥深い作品である。「私は自衛のための暴力を、暴力とは呼ばない。知性と呼ぶ」という黒人解放運動の指導者・マルコム...
ゆるいイエ社会の存在価値 長嶋有『佐渡の三人』 文化 3/13 17:30 酒井信さん寄稿人の気配の希薄さと、トキの存在を遠くに感じながら、新潟県の佐渡島に3度行く話である。ユネスコの世界文化遺産への推薦をめぐり「佐渡島の金山」が注目を集めている...
「集団の暴力」女性の視点で 桐野夏生『夜の谷を行く』 文化 3/6 17:30 酒井信さん寄稿「愛も憎も共有しているじゃないか。そういう思い出を一緒にする人間って、この世にいるようで、案外いないぜ」と、かつて「政治結婚」をしていた男に言われ、63歳の...
「勇士」に私情を重ねて 大江健三郎『河馬に噛まれる』 文化 2/27 17:30 酒井信さん寄稿あさま山荘事件は、長野県軽井沢町の別荘地にあった河合楽器の保養所で、1972年に起きた連合赤軍のメンバー5人による立てこもり殺人事件である。山荘の管理人の妻...
「箱庭細工」のような恋愛小説 田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』 文化 2/20 17:30 酒井信さん寄稿「人生というものは、芥川がその知性と神経のピンセットの先でつくりあげた箱庭細工のように出来上がっていない」と文芸評論家の江藤淳は述べている。言い換えれば、芥...
不器用かつ繊細に「私」を模索 西村賢太『どうで死ぬ身の一踊り』 文化 2/13 17:30 酒井信さん寄稿何のそのどうで死ぬ身の一踊り、という私小説家・藤澤清造の晩年の詠句から表題を採った表題作を含む、西村賢太の最初の作品集である。この句には、不遇だった藤澤の「...
大歌手が記す父との思い出 さだまさし『かすてぃら 僕と親父の一... 文化 2/6 17:30 酒井信さん寄稿さだまさしが父親の危篤に際して、家族との思い出をひもといた自伝小説である。父・雅人の口癖は「貴様が寝ション便垂れてる頃、私はお国の為に命を捧(ささ)げて戦っ...
伝統的景観生かし青春描く 米沢穂信『氷菓』 文化 1/30 17:30 酒井信さん寄稿青春小説はなぜ人々を魅了するのだろうか。一つの答えを示せば、おそらく多くの人が高校や大学に通い、社会人になりたての時期に、その後の人生を共にする友人や恋人、...
「心の死」めぐるミステリ 米沢穂信『満願』 文化 1/23 17:30 酒井信さん寄稿栃木県の八溝山地の「楽に、綺麗(きれい)に死ねる名湯」や、不審事故が続けて起きる静岡県の天城連山の「死を呼ぶ峠」、バングラディシュ・ダッカにある「ガス田開発...
子どもの感情通し描く「戦後」 髙樹のぶ子『マイマイ新子』 文化 1/16 17:30 酒井信さん寄稿かつて周防の国の都だった国衙(こくが)(現・山口県防府市)を舞台に、9歳の新子の成長を描いた作品である。北に多々良の山を擁し、南に穏やかな瀬戸内海を有する国...
理工大描くミステリ私小説 森博嗣「工学部・水柿助教授の日常」 文化 1/9 17:30 酒井信さん寄稿森博嗣は名古屋大工学部で「フレッシュ・コンクリート(生コン)」の研究を行い、助教授の立場で作家となった異色の経歴を持つ。本作は、森博嗣の「私小説」と言える自...
猟奇的事件絡め迫る人の闇 吉田修一『犯罪小説集』 文化 2021/12/19 17:30 酒井信さん寄稿この短編集は日本の地方都市を舞台とした五つの犯罪事件を、事件そのものというよりは、そのプロセスを関係する人々の内面を通して描いた短編集である。実際に起こった...
漲る野性味 マタギの全盛期描く 熊谷達也『邂逅の森』 文化 2021/12/12 17:30 酒井信さん寄稿熊やアオシシ(カモシカ)、ニホンザルなどの狩猟を生業とする「マタギ」の里・秋田県荒瀬村打当(現・北秋田市阿仁打当)で生まれた富治の物語である。胃腸病や婦人病...
「京都暴動」描くパニック小説 佐藤究『Ank:a mirror... 文化 2021/12/5 17:30 酒井信さん寄稿新型コロナウイルスの感染が拡大する以前の京都の「オーバーツーリズム(許容範囲を超えた観光)」を風刺した作品である。嵐山から京都御所、八坂神社まで「モンスター...
マイノリティーの「実存」 一穂ミチ『スモールワールズ』 文化 2021/11/28 17:30 酒井信さん寄稿ボーイズラブの作家として知られる一穂ミチが記した「マイノリティー」の人々の内面を綴(つづ)った純文学色の強い短編集である。流産を繰り返す「不育症」を抱えたフ...