お引っ越し【寝室と運動場 松原俊太郎13】 文化 5/26 17:30 京都にきてもう七年になる。いつから京都に?と、ひとに訊(き)かれるまでその長さは知らないままだったが、一度数えて知ってしまうと...
反省って2【寝室と運動場 松原俊太郎12】 文化 5/25 17:30 反省は自らを慰める甘い蜜にもなるし、自他の身動きをとれなくする罠(わな)にもなる。かといって反省しなくなれば独裁者ができあがる。ひとまずの土下座と紐(ひも)につながれた猿...
反省って1【寝室と運動場 松原俊太郎11】 文化 5/24 17:30 Hとひささんは、もう二カ月も前から、その遠出の計画を進めていた。普段はそんなにしないラインのやりとりも、この二カ月はたくさんしていた。そのやりとりのなかでHは一度、その遠...
三人で歩く【寝室と運動場 松原俊太郎10】 文化 5/23 17:30 三位一体、三宝、三種の神器、三権分立、こうして並べてみると三というのは落ち着きのある、バランスのとれた数であるような気がしてくる。春がきて、三人で遠出する次第となった。私...
学ぶと移る【寝室と運動場 松原俊太郎9】 文化 5/20 17:30 高校のとき、勉強合宿なるものがあった。独学を好んでいた私はそんなものを学校から強制される覚えはないと断固拒否の姿勢を見せ、夜半の父からの説得(すでに合宿代は支払われている...
会うは別れの【寝室と運動場 松原俊太郎8】 文化 5/19 17:30 会うは別れのはじめ、という。出会ってしまえば別れは必ずやってくる。どちらかは先に死ぬ。高校のときは、付き合っていたふたりがなんということもなく別れれば、「自然消滅した」な...
無音の日2【寝室と運動場 松原俊太郎7】 文化 5/18 17:30 (無音の日がつづいている)外に出て、自転車に乗ると、風の音もしない。後ろを気にしすぎても恐いので前方に注意して川べりへ向かい、芝生のうえで仰向(あおむ)けになると、見える...
無音の日1【寝室と運動場 松原俊太郎6】 文化 5/17 17:30 たまに、無音の日がやってくる。一面に降り積もった雪を前に茫然(ぼうぜん)と立ち尽くしたときのように朝、目を覚ましても音が聞こえてこない。カーテンを開けても、ベランダに出て...
意識を意識すると【寝室と運動場 松原俊太郎5】 文化 5/16 17:30 部屋に籠(こ)もりすぎたせいか、私の括約筋は活躍しなくなっていた。いまや映画館に行かずとも部屋で映画を存分に楽しめる時代だが、何度も思い出すのは映画館で観てきた映画のほう...
いぬ【寝室と運動場 松原俊太郎4】 文化 5/13 17:30 私はいぬが好きではなかった。獣の匂いがするし猫よりも固いし糞(ふん)の後処理が雑だし甘えてくるし、こうして並べてみると我が身を省みない狭隘(きょうあい)な精神が悲しくなる...
締切と扉【寝室と運動場 松原俊太郎3】 文化 5/12 17:30 締切前には私は獣になる。手当たり次第に近くにあるもの、特に甘いものを食べ、頭が重くなれば酒を飲み、ヨガをし、音楽とともに体を揺らし、何かを叫んでいる。外に出たいのだ。隔離...
売る言葉【寝室と運動場 松原俊太郎2】 文化 5/11 17:30 二十代のころの私はベッドのことなど気にしたこともなかった。しかし、年を経るにつれ、まわりは結婚したり、子育てを始めたり、仕事で体を痛めたりして、ベッドを気にし始めていた。...
声と余地【寝室と運動場 松原俊太郎1】 文化 5/10 17:30 七年前、私は東京から京都へ逃げてきた。大型家具量販店で働く鬱気味の友人宅に居候しながら本を読んでは書くの生活をしつつ、先の見えなさで鬱々(うつうつ)としていたとき、劇団地...