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「現代ブンガク風土記」

「現代ブンガク風土記」に関するこれまで扱われたニュース一覧を最新順に掲載しています。

2021 4/11 17:30
文化

日常に潜む「落とし穴」 芦沢央『汚れた手をそこで拭かない』

東京・神田の書店街。収録作「ミモザ」では、書店で行われたサイン会で、かつての不倫相手と再会した料理研究家が日常を侵されていく

 芦沢央は平穏だと考えていた日常を侵食する「小さな悪意」を通して小説のリアリティーを築くのが上手(うま)い。「汚れた手をそこで拭かない」は、人々が穏やかな日常生活の中で見落としているような「小さな悪意」を起爆剤として、喜怒哀楽に還元しがたい際どい感情を表現した優れた短編集である。

2021 4/4 17:30
文化

正気と狂気、理不尽な人間 高橋源一郎『ジョン・レノン対火星人』

物語の主要な舞台となる東京・小菅の東京拘置所。著者の高橋源一郎も19歳のときに学生運動に関わり収監されている

 高橋源一郎の「過激派」としてのルーツが感じられる作品である。群像新人文学賞の最終候補作となった「すばらしい日本の戦争」をもとにして執筆された3作目の作品である。

2021 3/28 14:30
文化

人気漫画家の「法外な青春」 内田春菊『ファザーファッカー』

主人公が暴力や虐待を受けた自宅の近くにあるという設定の「五十段坂」。急な階段を上りつめると長崎港が見下ろせる

 同級生の子を身ごもり、養父から性的な虐待を受け、16歳で家出をした内田春菊の自伝的な小説である。彼女が1年時に強制退学させられた長崎県立高校は、私の母校でもあり、この本が発売され、物議を醸した1993年に私は在学していた。

2021 3/21 17:30
文化

人々に生じた震災の余波 森絵都『漁師の愛人』 

東日本大震災で津波被害から復興した岩手県大槌町の港。「漁師の愛人」では、主人公が移り住んだ北の港町に溶け込めずに苦闘する姿が描かれる

 「震災以後」の日常を描いた五つの小説を収録した短編集である。いずれも東日本大震災後の2011年から13年にかけて書かれた作品で、子供から老人まで様々(さまざま)な人物の視点や感情を通して、東日本大震災が日常に与えた「余波」や「余震」を炙(あぶ)り出している。

2021 3/14 17:30
文化

豊かな自然と埋もれた感情 沼田真佑『影裏』

作者の沼田真佑が東日本大震災後に移住した盛岡市。作中でも主人公が居を移し、物語が動いていく

 「岩手というところは、じつに樹木が豊富な土地だと、夏が来て改めて思う」という一節が読後に強い印象を残す作品である。 作者の沼田真佑は北海道の小樽市生まれであるが、インタビューによると親の転勤で千葉、埼玉を経て、福岡に落ち着き、福岡大付属大濠高を経て西南学院大に進学している。

2021 3/7 15:34
文化

「揺れ」感じ続ける日本の姿 高橋源一郎『恋する原発』

東京電力福島第1原発。敷地内には放射性物質トリチウムを含む処理水をためるタンクが並ぶ

 高橋源一郎らしい、シリアスな問題をユーモラスに骨抜きにする作品である。「あきらかに、末期症状じゃないか」「どんなに馬鹿(ばか)馬鹿しい作品を作っても現実の馬鹿馬鹿しさには到底かなわない」といった原発事故を引き起こした現代日本への問いが作品全体を貫く。

2021 2/28 17:30
文化

血生臭い「記憶」継承の意味 中村文則『逃亡者』 

1月下旬、核兵器禁止条約の発効を歓迎し、長崎市の浦上天主堂で祈りをささげる人たち

 中村文則は、理不尽な暴行や虐待などを経験した人物のその後の人生を、彼らを内側から蝕(むしば)む「理不尽な記憶」を通して巧みに描く。土着的・排他的と形容される日本的な価値観や秩序のネガティブな側面と、ドストエフスキーの小説の登場人物たちのように自意識の底で向き合う作風も特徴的だ。

2021 2/21 17:30
文化

人生の転機捉えた短編集 森絵都『風に舞いあがるビニールシート』

夜間学部の第二文学部があった早稲田大戸山キャンパス。収録作の「守護神」は働きながら夜間大に通う社会人学生を描く

 児童文学の書き手として「カラフル」や「DIVE!!」などの作品で知られ、映画・アニメ・漫画にも翻案されて人気を博していた森絵都は、この作品で読者層を広げることに成功した。本作には、不器用に人生と格闘する登場人物たちを描いた六つの短編が収録されている。

2021 2/14 17:30
文化

地球科学の知見踏まえた物語 伊与原新『八月の銀の雪』

東京都の国立科学博物館の敷地内にあるシロナガスクジラのオブジェ。収録作「海へ還る日」はクジラの展示をきっかけに物語が展開していく

 著者の伊与原新は東京大理学系研究科で地球惑星科学を専攻した経歴を持ち、博士(理学)を取得している。海外では元科学者のSF作家は珍しくないが、博士号取得者が就職に苦労することの多い現代日本で、東大で博士号を取得し、一度は国立大学の理学部で助教を務めながら、作家に転じた例は珍しい。

2021 2/7 17:30
文化

架空の方言で描く母性神話 宇佐見りん『かか』

ライトアップされた青岸渡寺の「三重塔」と「那智の滝」。小説の中で、うーちゃんは熊野詣でに旅立つ=2020年12月19日、和歌山県那智勝浦町

 「推し、燃ゆ」で芥川賞に決まった宇佐見りんは、訛(なま)りを帯びた表現で女性の生理を描いたデビュー作「かか」で高い評価を受け、三島由紀夫賞を史上最年少で受賞した。著者の宇佐見は静岡県の沼津生れで、神奈川育ちであるが「かか」で使われる方言は、関西弁や九州弁に似た雰囲気を持ちながらも実在しない。

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