朝刊連載小説「本心」
連載

「朝刊連載小説「本心」」

死んだ母親のVF(バーチャル・フィギュア)と、仮想空間で会話を重ねていく29歳の青年。 あのとき、「安楽死」を口にした母親の本心は―。

2019 12/8 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第87回 第六章 嵐のあとさき

画・菅実花

「実は、岸谷さんは、ベビーシッターを頼まれていた家で、窃盗を働いたんじゃないかという疑惑を持たれてます。宝石や貴金属の類いがなくなっていると、依頼者が訴えています。

2019 12/7 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第86回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

「そう思わされてるんだよ、それは。本心じゃないね。

2019 12/6 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第85回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

 もう一歩踏み込んで、話を聞きたかったが、僕は、それを躊躇(ちゅうちょ)した。 それでも、彼のことを、自分が真に重要な問題について、語り合うべき友人だと認識していることを、どうしても伝えたくなった。

2019 12/5 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第84回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

 <あらすじ> 石川朔也はリアル・アバターという仕事をする二十九歳。亡くなった母のVF(ヴァーチャル・フィギュア)が完成し、朔也は仮想空間で<母>と再会した。

2019 12/4 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第83回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

 そこまで言うと、岸谷は、ビールを飲んで、僕の感心するような反応を待ったが、やはり、どことなく不安そうな表情だった。目が充血していて、かなり酔っているようにも見えた。

2019 12/3 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第82回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

「人間はさ、やっぱり、ほとんどの他人とキスなんかしたくない動物なんだな。街歩いてて、前から来る人間で、年齢性別を問わずに、キスしてもいい人としたくない人、数えていったら、圧倒的に、したくない人の方が多いよ。

2019 12/2 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第81回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

 と言われれば、非現実的なのがどちらなのかは明らかだった。 母は、我が子の境遇を案じて泣いているのだと、僕はずっと信じていた。

2019 12/1 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第80回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

 しかし、僕は、彼女に対して抱いた一個の具体的な、不可解な感情を、そのまま愛の定義としたのだった。 僕は彼女と、二人きりで会うことを望まず、肉体的に求め合うことを夢見ず、思いを告げることも、関係を持続することも、求めていなかった。

2019 11/30 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第79回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

 現実の欠落のような、小さな空虚を守るその貝は、記憶の遠近法の効果で、僕の手に収まるほどの小ささのまま、彼方(かなた)の職員室前に蹲(うずくま)っている僕たちの姿に、そのまま重なって一つになってしまうのだった。 梅雨入り前のある日、いつもの座り込みの場所に行くと、そこにはもう、僕以外、誰の姿もなかった。

2019 11/29 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第78回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

 退屈してくると、ゲームをしたり、教科書で自習したり、チャットをしたりと、各自がそこにいながら、別の場所にいるかのようになり、腰を伸ばすために時々立ち上がると、まるで久しぶりに再会したように、苦笑が洩(も)れた。 学校は、父母に内密に事態を収めたかったようだが、幾人かの参加者を通じて、間もなくその知るところとなった。

2019 11/28 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第77回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

 なぜ僕に頼むのだろうと、当時は思ったが、今思えば、その頃にはもう、僕以外にそれを言い出せないほど、教室で孤立していたのかもしれない。 僕自身は、それに気づけないほど、級友たちと言葉を交わさなかったが。

2019 11/27 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第76回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

 僕は、「お母さん、そんなことは言わなかったよ。」と注意しかけたが、寧(むし)ろ<母>に自由に語らせて、三好との間でどんな会話がなされたのかを知ろうとした。

2019 11/26 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第75回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

 母の肉声を通じて、遂(つい)に聴くことのなかった出来事は、他にも幾らでもあるはずだった。その一つに触れて、僕はうれしくなった。

2019 11/25 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第74回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

 ベランダと合せて、七つあった鉢は、辛うじてまだ生きていたが、あまり元気でなく、日に当てようと外に出した小さなガジュマルは、葉が茶色になっていた。 僕は、ネットで見た、コーヒーの滓(かす)で作る肥料を与え、三つの鉢の土を替えた。

2019 11/24 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第73回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

 猫は、前足を伸ばして音もなく椅子から跳び降りた。そして、スッと顔を上げ、周囲を見渡し、プールサイドを駆けていったかと思うと、いつの間にか姿を消していた。

2019 11/23 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第72回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

「言ってたよ。本当に朗らかな顔で、『もう十分』って。

2019 11/22 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第71回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

 なるほど、対面であれば得られるはずの「表情とか仕草(しぐさ)」といった情報を、今、僕たちは欠いていた。そして、それがあれば、母の言葉の真偽を判断できたはずだという彼女に、僕は呆(あき)れていた。

2019 11/21 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第70回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

「お母さん、自分が働けなくなったあと、預金でどれくらい二人で生活していけるか、計算してたから。どんなことしてでも、働くつもりだったみたいだけど、もし仕事が見つからなかったらって心配してたし。

2019 11/20 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第69回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

「旅館で、お母さんは、わたしと一緒に、布団の上げ下げをするような下働きをしてたんです。アルバイトの子たちを取りまとめながら。

2019 11/19 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第68回 第五章 “死の一瞬前”

画・菅実花

「ああ、そうなんですか。……静かだと思ってたんですが。

平野氏のメッセージ

私たちの生を、さながら肯定する思想を考え続けています。主人公は、愛する母親を亡くしたあと、仮想現実によって再現された母親と生活することになります。その過程で見えてくる母の本心と、自分の心の変化が主題です。乞うご期待!

平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)プロフィール

 1975年、愛知県蒲郡市生まれ、北九州市育ち。東京都在住。京都大在学中の99年、デビュー作「日蝕」で芥川賞。「ある男」(読売文学賞)など。「マチネの終わりに」(渡辺淳一文学賞)は福山雅治さん、石田ゆり子さん共演で映画化され、11月1日に公開予定。

マチネの終わりにの公式サイト

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