朝刊連載小説「本心」
連載

「朝刊連載小説「本心」」 (3ページ目)

死んだ母親のVF(バーチャル・フィギュア)と、仮想空間で会話を重ねていく29歳の青年。 あのとき、「安楽死」を口にした母親の本心は―。

2020 6/22 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第277回 第九章 本心

画・菅実花

 けれども、腕に仕込まれていたピストルが、ここぞ!というタイミングで長袖の下から飛び出し、銃弾を放つと、僕たちは、どちらからというわけでもなく、顔を見合わせて、暗がりの中で何となく笑った。 僕は、三好がイフィーと話し合うことを後押したが、イフィーには直接、連絡を取らなかった。

2020 6/21 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第276回 第九章 本心

画・菅実花

 それでも三好は、きっとイフィーを愛するようになる、と僕は予感していた。イフィーも。

2020 6/20 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第275回 第九章 本心

画・菅実花

 三好はそう言った後に、思わず口をついて出た「もう十分」というその言葉が、母が安楽死を決意した際に口にした一言だったことを思い出したらしく、気まずそうに目を逸(そ)らした。「イフィーさんも、自分の障害を三好さんに受け容(い)れてもらえるかどうか、不安がってました。

2020 6/18 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第274回 第九章 本心

画・菅実花

 僕は、三好の本心が知りたくて、自分でも驚くほど、率直に尋ねた。しかし、流石(さすが)にその言葉は、耳に入るなり、僕を苦しめずにはいなかった。

2020 6/17 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第273回 第九章 本心

画・菅実花

「イフィーの気持ちは嬉(うれ)しいけど、……やっぱり、おかしいと思う。『あっちの世界』の生活にずっと憧れてたし、イフィーと友達になれるなんて、それだけで夢みたいに楽しかったけど、朔也(さくや)君の言う通り、彼も若いから。

2020 6/16 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第272回 第九章 本心

画・菅実花

 僕は、彼女に対してではなく、寧(むし)ろ自分自身に向けて、改めて僕の彼女に対する思いを語りかけた。それはまるで、僕ではない僕からの声のように、重たく胸に響いた。

2020 6/15 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第271回 第九章 本心

画・菅実花

 勿論(もちろん)、僕は「平気」ではなかった。どちらの意味に於(お)いても。

2020 6/14 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第270回 第九章 本心

画・菅実花

 と、前日の出来事について、真意を確かめるように尋ねた。「イフィーさんから、三好さんに対する思いは打ち明けられてました。

2020 6/13 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第269回 第九章 本心

画・菅実花

 三好は、不意に尋ねた。 と言い足した。

2020 6/12 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第268回 第九章 本心

画・菅実花

「そうなんですか? あんまり母が見そうにない映画だったので、ふしぎでした。「大好きなの、わたし、この映画。

2020 6/11 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第267回 第九章 本心

画・菅実花

 どれほど彼が優れた人間であろうと、三好の同居人であるという一点に於(お)いて、僕は彼から嫉妬され、また猜疑心(さいぎしん)を向けられる存在だった。残念ながら、僕の自尊心は、そこに拠(よ)りどころを見い出すほど、逞(たくま)しく屈折してはいなかったが。

2020 6/10 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第266回 第九章 本心

画・菅実花

 イフィーの絶望は、僕の胸に金属的な熱を帯びたまま染み出し続けていた。 三好は硬く口を閉ざして、しばらく俯(うつむ)いていた。

2020 6/9 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第265回 第九章 本心

画・菅実花

 遠くの照明に、彼女は、顔の右半分だけを照らされていたが、その頬は微(かす)かに震えていた。「駄目でしょう、イフィー、それは。

2020 6/8 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第264回 第九章 本心

画・菅実花

 それこそは、リアル・アバターという、僕の本来の仕事に、まったく適(かな)ったことだったが。 西口の野外劇場では、何かのイヴェントをやっていて、僕たちはその人集(ひとだか)りを分け入ってゆくことが出来なかった。

2020 6/7 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第263回 第九章 本心

画・菅実花

 イフィーは結局、石板の土台に、鉄製のヘラジカの頭を乗せた小さなペン・ホルダーを選んだ。三万五千円だった。

2020 6/6 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第262回 第九章 本心

画・菅実花

 通路は狭く、他の客と擦れ違う際にはコートやバッグが、並べられている小物に触れはしまいかとかなり注意した。イフィーが車椅子で来るのは、難しそうだった。

2020 6/5 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第261回 第九章 本心

画・菅実花

 <あらすじ> 石川朔也はアバター・デザイナーのイフィー専属のリアル・アバターとして働く。朔也はイフィーと知り合うきっかけとなった動画のコンビニ店員のティリ・シン・タンと話し、日本語習得が必要な人の支援ができないかと考える。

2020 6/4 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第260回 第九章 本心

画・菅実花

 イフィーとの接続は、問題なかった。「僕はほとんど外出しないですけど、池袋は特に、全然来ないんです。

2020 6/3 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第259回 第九章 本心

画・菅実花

「そうですね。……そうしてください。

2020 6/2 5:00
文化

平野啓一郎 「本心」 連載第258回 第九章 本心

画・菅実花

 亡くなった母の思い出と、三好とイフィーとの生活が、僕を救ってくれたが、振り返るほどに、あの頃、何度となく交わした岸谷との会話は陰惨な印象を与えた。 僕はそのニュースのせいで、少しぼんやりしていた。

平野氏のメッセージ

私たちの生を、さながら肯定する思想を考え続けています。主人公は、愛する母親を亡くしたあと、仮想現実によって再現された母親と生活することになります。その過程で見えてくる母の本心と、自分の心の変化が主題です。乞うご期待!

平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)プロフィール

 1975年、愛知県蒲郡市生まれ、北九州市育ち。東京都在住。京都大在学中の99年、デビュー作「日蝕」で芥川賞。「ある男」(読売文学賞)など。「マチネの終わりに」(渡辺淳一文学賞)は福山雅治さん、石田ゆり子さん共演で映画化された。

マチネの終わりにの公式サイト

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