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新聞記事に使われた語彙(ごい)を説明した新聞用語ひと口メモ。このページでは新聞に掲載されたワードBOXとその関連記事をピックアップして紹介します。

冷や汁

 日本各地によく似たメニューがあり、全国から客を迎える森松平さんによると、九州でも熊本県の阿蘇や天草、長崎市などにある。麦みそを焼くのがほぼ共通するという。愛媛県宇和島市では「さつま」と呼ばれ、漁師の船上食だったとされる。薩摩藩は船で年貢米を大阪に運んでいたことから、寄港先で広まったのではないか、と森さんは推測する。

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【和食力】冷や汁 庶民の知恵 麦飯食べやすく 栄養満点

 口の中に甘いみその味が広がった。もう一口食べると大葉の香りが、もうひとかみするとミョウガの風味が鼻に抜ける。薄切りキュウリの歯触りが涼しげで心地いい。

 宮崎の郷土料理「冷や汁」は大ざっぱにいえば、冷たいみそ汁をかけたご飯。宮崎市の郷土料理店「杉の子」で、「汁かけご飯」や「猫まんま」といった単純なイメージは覆された。冷や汁を名物料理に仕立てた店の一つだ。

 「いりこの頭とわたは取り除きます。舌触りを良くして苦味を取り除くためです」。大きなすり鉢をがっちりと押さえる同店オーナーシェフ森松平さん(77)が説明してくれる。大量のいりこを、これまた極太のサンショウの木のすりこぎで一気にすりつぶすと、ふわりと舞うほどの細かい粉末に。これをみそとすり合わせてオーブンで焼き、だしでのばしてよく溶かす。ほぐした干物(アジ、カマスなど)、キュウリの輪切り、細切りの大葉やミョウガ、ごま、手でつぶした豆腐を加え、麦飯にかければ出来上がり。

 「地味ですが、柔らかで素朴な味。それでいて中身の栄養は満点。まるで宮崎県民のようでしょう」。若おかみの前田省子さん(50)が県民気質に例えて特徴を紹介してくれた。

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 冷や汁は、農作業の合間や朝食などで食べられる家庭料理。同県では宮崎平野など県央部に伝わる。鹿児島県枕崎市出身の森さんは幼いころ普段から冷や汁を食べた。「薩摩文化圏で生まれた料理」と推測する。

 その歴史は江戸時代にさかのぼる。年貢米を納めなければならない農民の主食は麦。普通に炊いてもボソボソして食べられないため、水を加えて再び炊き、膨らませて食べた。これを地域の食材を生かし、おいしく食べられるよう工夫したのが冷や汁という。庶民の暮らしが豊かになって白米を普通に食べるようになると、鹿児島の冷や汁文化は細った。一方、薩摩藩の支藩があった佐土原(宮崎市)などには残ったという。

 森さんは1970年に現在の店を開き、看板となる郷土料理を探した。佐土原出身の妻玲子さん(72)の実家を訪ねたとき、出されたのが冷や汁だった。その後、プロの技が加わり、名物料理として表舞台に出ることになる。

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 「皮をむいた落花生をすり鉢でガリガリやるのが僕ら子どもの役目でした」。宮崎市の男性会社員(42)は暑い季節の朝の光景を思い出す。子ども向けに大葉ではなくネギやいり卵が入った。起き抜けでもかき込めたおふくろの味だ。

 現在、宮崎市の多くの飲食店がキュウリの代わりに地域特産のナスを入れるなど具材や味付けで独自の冷や汁を競う。トマトを載せるなどサラダ感覚で楽しむ今風のものもあるという。

 多様な食材を生かし、工夫を重ね、少しでもおいしくする。そこには地域の風土や歴史も映し出される。南北に長い日本には、こうして個性豊かな郷土料理が生まれてきた。今につながる和食の源流である。

 「土地の香りがするものを出したい」。そんな思いで森さんはJR九州の豪華寝台列車「ななつ星in九州」に宮崎での昼食を提供している。きょうから2カ月間、冷や汁を楽しんでもらう。


=2015/07/15付 西日本新聞朝刊=

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