ワードBOX

新聞記事に使われた語彙(ごい)を説明した新聞用語ひと口メモ。このページでは新聞に掲載されたワードBOXとその関連記事をピックアップして紹介します。

旧優生保護法

 「不良な子孫の出生防止」を目的とし知的障害や精神疾患、遺伝性疾患などを理由に不妊手術を認めた法律。1948年に議員立法で制定された。96年に障害者差別に当たる条文を削除し、母体保護法に改正。国の統計では、不妊手術を受けたのは約2万5千人、うち約1万6500人は強制とされる。昨年1月以降、全国7地裁で男女20人が国家賠償請求訴訟を起こし、初の司法判断となった今年5月28日の仙台地裁判決は、旧法の違憲性を認めたものの、原告2人による賠償請求は棄却。原告側は仙台高裁に控訴している。この判決に先立つ今年4月24日、被害者に一時金320万円を支給する法律が成立し、即日施行された。

※ワードの説明及び記事の内容は更新日のものです。

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優生政策の歴史と向き合う 3医学会が自己検証を開始 強制手術、国と一体

 多くの障害者に不妊手術を強制した旧優生保護法(1948~96年)の立法や手術に関わったとして、日本精神神経学会など三つの医学会が自己検証に乗り出した。障害者が増えて国力が衰えるとする「逆淘汰(とうた)説」に基づき優生思想を広げたり、強制手術の対象者を選んだりと、科学者が国と一体になって優生政策を進めた歴史に向き合う。今年の学術総会などで総括する予定で、優生政策の制度設計や運用について解明が進むことが期待される。

 こうした動きの背景には昨年以降、手術を受けた障害者らが国家賠償請求訴訟を相次いで起こしていることがある。2016年には障害者19人が刺殺された相模原事件も起きた。旧法下の障害者差別は今も続く問題として、原告弁護団が法制定の経緯や被害実態などの検証を求めていた。

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 日本精神神経学会は1902年に設立された精神科医らの学術団体で、会員約1万8千人。同法下で本人同意のない強制手術を行うには、医師による都道府県認定審査会への申請が必要で、主に精神科医が申請。審査会委員として手術を認めた精神科医もいた。また同法は「不良な子孫の出生防止」を目的にしながら、遺伝の根拠がないうつ病や知的障害、アルコール依存症なども対象とし、学会は看過してきた。

 同学会によると、今年6月に新潟市で行われる学術総会に専門家を招き、こうした経緯や運用について検証を始めるという。

 優生思想を広げ、法制定に関わったのは、日本健康学会(旧日本民族衛生学会、約500人)。吉田茂、鳩山一郎の各氏ら政治家も名を連ねて30年に発足。「遺伝が人間の優劣を決定する」との考えの下、逆淘汰を防ぐためとして障害者に不妊手術を施す「断種法」や国家機関の必要性を訴えた。38年の厚生省(現厚生労働省)設置や、旧優生保護法の前身、国民優生法(40~45年)制定につながった。戦後も逆淘汰説を訴え、会員だった谷口弥三郎参院議員(産婦人科医)らによる議員提案で旧優生保護法が成立した。

 同学会は学会名変更を検討する中で6年前から同法との関わりを調査。今年11月、長崎市での総会で講演会やパネルディスカッションを計画している。

 日本衛生学会(約1500人)は昨年12月、52年に出した建議を取り消し「優生思想を排除することを宣言する」との提言を発表。建議では、避妊による人口抑制策を国が推進していることについて「逆淘汰等の過誤を犯す基ともなりかねない」としていた。大槻剛巳理事長は「3年前に建議の存在が分かった。取り消さなければ、今も強制手術などの人権侵害を容認していることになる」と話す。

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 一方、強制手術を担った指定医らでつくる日本産婦人科医会(旧日本母性保護医協会=日母、約1万1600人)は「関係者の多くが亡くなっていることもあり、今のところ検証予定はない」とする。日母は日本医師会長も務めた谷口氏が49年に設立。国会では日母所属の医系議員が、手術数の増加や予算の増額を繰り返し要求していた。

 この問題を巡っては、原告弁護団が検証委員会の設置を求めているが、与党合同ワーキングチームなどが昨年12月にまとめた救済法案骨子では「調査の在り方を検討する」との表現にとどまっている。

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出生前診断含め検証を

 横山尊(たかし)・日本学術振興会特別研究員の話 3学会の検証には意味があるが、制度設計や運用に最も深く関わった政府と日本産婦人科医会(旧日本母性保護医協会)の検証なくしては、歴史の実像や公正な観点がゆがめられる恐れがある。また過去の検証だけに終わらせてはいけない。優生思想は今もある。障害児出生抑制策として1960~70年代に公費で行われた羊水検査などの出生前診断は、近年は妊婦の自由意思の下で一層身近になっている。先端生殖医療への関わりも含めて優生思想とは何かを検証することが、未来に教訓を生かす上で大切だ。

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ナチスの影響色濃く 門司和彦・長崎大教授に聞く

 学会誌など過去の文献から優生保護法への関わりを調査している日本健康学会(旧日本民族衛生学会)理事の門司和彦長崎大教授に話を聞いた。

 前の学会名では若い研究者が入らないと考え2017年に改めたが、その前に「優生思想を体現したような名で、来し方を見つめ直す必要がある」との声が内部で上がり検証を始めた。

 学会は永井潜(ひそむ)・東京帝国大(現東大)教授の主導で創設されたが、彼はナチスにも影響を与えたドイツの優生学を留学中に学んだ。日本が戦争へ向かう中、研究より優生思想の啓蒙(けいもう)に主眼を置き、ナチスの断種政策を引き合いに法の必要性を説いた。戦後、学会の影響力は低下し、旧優生保護法への関与は小さいが、永井は逆淘汰説を訴え続けた。

 当時は障害のない状態を「優れている」と捉え、そうした人を増やすことが国の復興につながると信じていた。だが逆淘汰説や精神疾患の遺伝に根拠はなく、明らかに誤っていた。

 今はむしろ多様性こそが文化的にも種の保存の観点からも大切だとされている。昨今の健康ブームや健康至上主義は健康を一面的に捉え、障害者や病気の人を排除しかねない。健康とは生きがいや幸福感も含め、もっと多様であることを伝えていきたい。

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【ワードBOX】旧優生保護法

 精神障害者や遺伝性疾患の患者、出産が体や生活に影響する女性に、任意での不妊手術や人工妊娠中絶を認める一方、障害者らについては、本人同意がなくても医師の申請と都道府県認定審査会の認定があれば強制不妊手術を認めた法律。手術は産婦人科の指定医が行った。不妊手術を受けた人は約2万5千人、うち強制手術は約1万6500人とされる。1996年に障害者差別に当たる規定が削除され、母体保護法に改正。昨年1月以降、手術を強制されたとして男女19人が国家賠償請求訴訟を熊本など7地裁に起こしている。

=2019/02/18付 西日本新聞朝刊=

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