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文在寅政権の「新経済構想」

 文在寅大統領が昨年7月に打ち出した構想で、北朝鮮の「非核化」を前提に、南北一体で産業基盤を共有し経済的繁栄を目指す。
 具体的には、物流・交通網を構築して、中国と結ぶ朝鮮半島西側の「環黄海経済ベルト」▽観光、資源、エネルギー網をロシア極東と結ぶ半島東側の「環東海経済ベルト」▽環境、平和、観光をテーマとして開発する軍事境界線一帯の「平和ベルト」-で構成。環黄海経済ベルトには、南北の経済交流事業、開城工業団地の再開に加え、第2の工業団地構想も盛り込まれている。構想は、中国が掲げる現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」とも連携し、朝鮮半島に世界から投資を呼び込む計画。

2018年05月14日更新

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 ●制裁 今秋に一部解除か 南北の経済融合を提案

 ソウル出身の政治経済学者で、「竹島密約」などの著書で知られるロー・ダニエル氏が西日本新聞の取材に応じた。4月27日に10年半ぶりの南北首脳会談を実現し、史上初の米朝首脳会談を仲裁した韓国の文在寅(ムンジェイン)政権が、北朝鮮の「完全な非核化」を待たずに今秋、国際社会の制裁が一部緩和され、早ければ来年中にも全面解除されると予測。そうした動きをにらみながら緩やかな南北経済融合を目指す戦略を描いているとし、ロー氏は「朝鮮半島は今、大きな歴史の転換点に立っている」と強調した。
 (聞き手はソウル曽山茂志)

 -南北の軍事境界線上での文氏と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の握手で始まった南北首脳会談は終始、融和ムードにあふれていた。

 「朝鮮半島は大きな歴史の転換点に立っている。分断70年で南北は全く異なる性質を持った。韓国は米国に依存しながら民主主義に強くこだわり、北朝鮮は独裁政権で中国に依存する。隣接していても、それぞれが独立した二つの島のようだ。それが米中主導でなく今回、自主的に歩み寄ったことに大きな意義がある」

 -両首脳が「完全な非核化」を明記した「板門店宣言」に署名した。6月12日の米朝首脳会談に弾みがついたとみていいか。

 「正恩氏は5月中に廃止する(豊渓里(プンゲリ)の)核実験場に続き、米朝首脳会談で今後の非核化の具体的な計画を示す可能性がある。文政権はそれを踏まえ、9月9日の北朝鮮の建国記念日か、その後の文氏の初訪朝に合わせて国際社会の制裁が一部解除されると予測している。(2016年2月に)操業を中断した南北経済交流事業の柱、開城(ケソン)工業団地の再開は当然視野に入っている」

 「トランプ米大統領は11月の議会中間選挙に向け、制裁の成果で北朝鮮が対話の場に出てきて、具体的な非核化の動きが始まったとPRできる。中国、ロシアも早期に制裁網から離脱し、非核化の動きと制裁解除は並行して進むだろう。最終的には、非核化の道筋が見えた段階で国際社会の制裁が全て解除される。それは早ければ来年中だ」

 -「非核化」を見届けずに制裁が解除されるのか。

 「トランプ氏は20年の大統領選までに北朝鮮政策の成果を出して、『世界
に平和を取り戻した』と主張したいはずだ。米国では外交が票につながる。物理的な『非核化』は道半ばでも、最終的には政治的な打算が働くだろう」

 ▼「普通の国家」目標

 -過去、国際社会との約束をことごとく裏切ってきた北朝鮮を信じられるか。

 「国際社会の制裁が効いているのは事実だ。一方で国内事情もある。北朝鮮には既に約500カ所の市場があり、携帯電話も500万台普及しているといわれる。指導者一族を頂点に軍、公務員、平壌市民が富を独占する社会は変わりつつある。こうした内外の状況を踏まえ、正恩氏が歴史に名を残すために『普通の豊かな国を目指す』と判断したのではないか」

 -正恩氏は、政府高官を次々と処刑するなど人格的にも問題がありそうだ。

 「彼の残虐性の象徴といえるのが、叔父で事実上の政権ナンバー2だった張成沢(チャンソンテク)氏が13年に処刑された事件だ。正恩氏は官僚の腐敗に厳しく対処しており、とりわけ外貨の横領は即刻処刑してきた。張氏は横領集団を牛耳っていたとみられ、正恩氏は古い体質を抜本的に変えるために重い決断を下した」

 「正恩氏は北朝鮮で初めて西洋の教育を受けた指導者だ。早くから父の故金正日(キムジョンイル)総書記に後継者としての教育を受けた。30代前半だが、南北首脳会談の振る舞いを見ても、大胆で機転が利く印象だ。米朝首脳会談が成功すれば、初めて米中韓の支持を得た指導者になる。もはや見直すべき存在になりつつある」

 ▼手渡されたUSB

 -それにしても、文氏の南北融和策は急ピッチだ。

 「(過去2回の南北首脳会談を実施した)金大中(キムデジュン)、盧武鉉(ノムヒョン)両政権からの連続性で考えるべきだ。大統領府には金、盧両政権の系譜につながる人材が集結し、東北アジアに残った最後の『冷戦構造』からの転換を目指している」

 「文氏の任期は(5年で)残り4年。憲法改正で次期政権から任期4年、再選も可能になれば(文氏の後継候補が勝利した場合)今後12年間、革新政権が続く可能性が高い。この間、着実に南北融和が進む。逆に言えば、韓国で反北朝鮮路線の保守勢力の復権は当分厳しいだろう」

 -朝鮮戦争の「休戦協定」(1953年)を年内に「平和協定」に切り替えられれば、朝鮮半島にとって歴史的に極めて大きな意義を持つ。

 「第2次世界大戦後に日本が主権を回復した52年のサンフランシスコ講和条約、米中が和解して冷戦構造の転換点になった72年の米中共同コミュニケに続く東北アジアの大きな転換点になり、世界史に残る出来事だ。『戦時』でなくなれば、韓国の兵役もなくなるかもしれない。南北共に軍事費も削減できる」

 -南北の行き着く先は。

 「先の首脳会談で、文氏は正恩氏にUSBメモリーを1個渡した。文氏が掲げる朝鮮半島の一体的な経済圏計画『新経済構想』の詳細だ。『板門店宣言』にも南北の鉄道や道路の連結計画が盛り込まれた。相互不可侵を守りつつ、経済を融合する『経済連邦』に向かうのではないか。北朝鮮の資源、不動産開発、道路、鉄道整備で韓国が得る利益は大きい」

 -朝鮮半島激変の時代に日本の果たす役割は。

 「日本人拉致問題について、正恩氏は前向きに取り組むのではないか。その姿勢を見極める必要はあるが、うまくいけば、北朝鮮への経済協力は日本にとって大きな商機になる。北朝鮮の産業基盤は日本統治時代に造られ、今でも北朝鮮の技術者は日本をお手本にしたいと考えている。日本は積極的に参入を目指すべきで、安倍晋三首相の決断が問われる」

 ▼ロー・ダニエル ソウル出身。政治経済学者で小説家。米マサチューセッツ工科大で博士号取得。香港科学技術大助教授、上海・同済大客員教授、一橋大客員研究員、京都産業大客員研究員などを歴任。現在は、北東アジアの政治経済を研究する「アジア・リスクモニター」(ソウル)代表。

 日本語での代表作は、島根県・竹島の領有権を巡る日韓の交渉の舞台裏に迫った「竹島密約」(2008年)。17年には日本、韓国、北朝鮮の政治、国民性の違いを地理的環境や気候・風土の観点から探った「『地政心理』で語る半島と列島」を出版した。韓国語では「安倍晋三の日本」、小説「鬼怒川」など多数出版。「政治、経済の難しいテーマをどんな人にも理解できるように伝える」を心掛けている。63歳。

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 【ワードBOX】文在寅政権の「新経済構想」

 文在寅大統領が昨年7月に打ち出した構想で、北朝鮮の「非核化」を前提に、南北一体で産業基盤を共有し経済的繁栄を目指す。

 具体的には、物流・交通網を構築して、中国と結ぶ朝鮮半島西側の「環黄海経済ベルト」▽観光、資源、エネルギー網をロシア極東と結ぶ半島東側の「環東海経済ベルト」▽環境、平和、観光をテーマとして開発する軍事境界線一帯の「平和ベルト」-で構成。環黄海経済ベルトには、南北の経済交流事業、開城工業団地の再開に加え、第2の工業団地構想も盛り込まれている。構想は、中国が掲げる現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」とも連携し、朝鮮半島に世界から投資を呼び込む計画。

=2018/05/14付 西日本新聞朝刊=

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