森林(もり)を愛する仲間たちと阿蘇の林業を未来へ ~林業体験 トライアル雇用事業~
古くから林業が盛んな熊本県阿蘇地域。そこでは豊かな森林が育まれており、小国杉(おぐにすぎ)や阿蘇南郷檜(あそなんごうひ)の産地としても知られる。
阿蘇地域の林業事業体と行政で作る「阿蘇地域林業担い手対策協議会」は、阿蘇地域の林業を未来へ引き継いでいく取り組みとして、林業の魅力を発信し、山で働く人やこれから働きたい人をサポートしている。
今回紹介する3日間の林業体験「トライアル雇用事業」はその取り組みの一つだ。林業体験をきっかけに、林業の道を志し、株式会社虎屋林業に就業した山田雅之さん(32)と同社代表の菅晃大朗さん(38)のお二人に話を聞いた。
阿蘇で3日間の林業体験
林業体験「トライアル雇用事業」は、林業への就業を考えているが“自分に向いているか試したい”という人のための事業だ。林業全般の作業(伐採作業、林業機械操作、植付け作業、下刈りなど)を林業事業体の指導員と共に、3日間体験する。
参加資格は、阿蘇地域での林業就業に関心があり、林業経験が1年未満、林業就業に健康上問題がなく、満55歳以下の条件を満たす人。ここで紹介する山田さんは2018年にこの事業を利用し、20年に阿蘇市の虎屋林業に就職した。

見るのも初めて・・・チェンソーで木を倒して
―山田さんがトライアル雇用事業に参加しようと思ったきっかけは。
山田 大学の就職活動中に、一般企業を目指すべきか悩んでいました。「自分にしっくりくる仕事は何だろう」と考える中、工学部に所属しながらも浮かんできたのは農業や林業の仕事でした。熊本県益城町で育ち、神社で遊んだり阿蘇に出かけたりして自然と関わるのが好きだったからです。
林業体験ができるトライアル雇用事業については、益城町で開催された「森林の仕事ガイダンス」というイベントに足を運び、阿蘇の林業事業体のブースで知りました。「林業ができればいいけれど、自分にできるのか?」という不安があり、トライアル雇用事業に応募しました。
―トライアル雇用事業を受けたときの印象は。
山田 体験は全体的に楽しかったです。見るのも初めてのチェンソーを扱い緊張しましたが、自然の中で体を動かすことが気持ち良く、山の仕事を少し理解できた気持ちになりました。チェンソーを構えて写真を撮ったり、木々に囲まれた中でお弁当を食べたり。工夫を凝らした体験プログラムだと感じました。
―体験内容をもう少し詳しく聞かせてください。
山田 チェンソーの構え方、刃の研ぎ方などの整備を習い、実際に高さ20メートルくらいの木を1本切り倒しました。枝を落として、4メートルほどの丸太に切りそろえる作業も体験させてもらい、「やっていける」という気持ちが沸々と湧いてきて、林業に挑戦しようと決めました。

―トライアル雇用事業を経て、虎屋林業に就職した経緯を。
山田 熊本県には、林業の技術を習得できる「くまもと林業大学校」があります。そこで実地研修の講師だった虎屋林業の皆さんと出会いました。間引きをしながら将来に木を残していくという林業に取り組んでいること、また比較的小さい機械を使って、山に負荷の少ない林業を目指しているという虎屋林業の考え方に共鳴しました。
―現在の仕事内容は。また、やりがいはどんなところにありますか。
山田 森林の木を間引く間伐作業に主に携わっています。また、山主の意向や木の成長度合いに応じて皆伐に携わることもあります。夏場は、植林した山の下草刈りもします。間伐した後に山がきれいになり、山主の方が喜んでくれている顔を見たとき、自分の選んだ仕事にやりがいを感じます。
―林業に対するイメージは変化しましたか。
山田 林業に関わる前は、チェンソーを使ったり、大木を切り倒したりする作業に危険なイメージを持っていました。しかし、本格的に林業の仕事に携わってみると、基本通りに作業すれば事故も起こりにくく、森林が整備されることで、環境保全にも貢献する大切な仕事だという思いが大きくなりました。
相手は自然、謙虚になれる。

―菅さんが思う林業の魅力とは。
菅 自然の中で働くので思い通りにいかないことはたくさんあります。木は50年、100年という長い時間を生きています。先人が植えた木を受け継ぎ、多くの人が手を加えてきたことで、今の森林の姿があります。その過程に関わることができ、次の世代に引き継がれていくことが一番の魅力ではないでしょうか。
また、明るい時間にしか仕事をしないので残業がありません。自分の時間をしっかり持てることも魅力の一つです。
―虎屋林業の現場の雰囲気は。
菅 当社は小さな会社で、従業員は自分を含めて3人、一つのチームとして動きます。枝の付き方などが同じ成長の樹木は一本もありません。また、地面の傾斜、風の有無。木を倒す瞬間に風が吹く場合もありますし、作業は頭と体を使いながら進める必要があります。
現場での作業手順、伐倒方向や作業道のルート選定など判断に迷ったときは気軽に話し合える雰囲気を大事にしています。私自身も、山田くんに相談することもあります。自分とは違う視点も大事なので。いわば、気の許せる仲間で仕事をしている感じですね。
―安全について心がけていることは。
菅 私は、山の仕事に携わって最初に、安全についての知識と技術をしっかり教わりました。
法令などで決まった禁止行為は絶対にしない、そして「決して無理をしない」こと。自分の命より大切な木はありません。「思い通りにいかないこともある」「できないならそれでOK」くらいの心持ちで指導しています。

―目指している林業の姿は。
菅 今は50~60年程度で木を伐る風潮にありますが、その一方で、100年、200年先まで手入れし続けて、立派な森林に育てたいとも思っています。自分が死んだ後に「こんなにいい木がある」と言われるのが夢ですね。そのような山があっても良いと思います。また、森林所有者、働く人、地域住民が満足できる「三方よし」を目指しています。
協議会から、林業に興味がある方々へのメッセージ
チェンソーの音、木が倒れる瞬間に地面が揺れる振動。動画サイトなどでも見ることはできますが、現場で味わうリアルさは全く違います。阿蘇の雄大な自然の中での仕事から得られる爽快感や達成感!阿蘇の林業を盛り上げたいと思われる多くの方々に”あその山モン”として活躍してもらえることを望んでいます。
今回紹介した虎屋林業以外にも明るく元気な”あその山モン”たちがあなたを待っています。
※「あその山モン」とは阿蘇を愛し、山を愛し、仲間とのつながりを大切にする、阿蘇地域の林業に携わる人たちの呼称。

今回紹介した、お二人のお話や林業体験(トライアル雇用事業)については、ユーチューブで動画配信もしていますので、ぜひ、ご覧ください。
林業体験(トライアル雇用事業)について
阿蘇地域で林業への就業を考えているが、林業のことをもっと知りたい、体験したい人を林業事業体で受け入れて行う3日間の林業体験。
※林業体験のみ(就業の希望が無い)の申し込みはお断りしています。
➤参加資格
以下の①~③の要件を全て満たす人
①林業就業に健康上問題がない
②林業の就業経験が通算1年未満
③年齢が満55歳以下
➤体験内容
基本的には、伐採作業、林業機械操作、植付け作業、下草刈りなどの体験(体験の時期によって、体験内容の組み合わせが変わります)
➤体験者への助成(協議会からの助成)
〇日当:1人当たり10,000円
〇旅費、宿泊費:1人当たり上限50,000円(林業体験期間中)
〇保険:期間中、傷害保険に加入(体験者を受け入れる林業事業体が加入)
【お問い合わせ】
阿蘇地域林業担い手対策協議会(事務局)
〒860-0862
住所 熊本県阿蘇市一の宮町宮地2402 熊本県阿蘇地域振興局農林部林務課内
連絡先 0967-22-2312(直通)
【協議会会員】
(行政)熊本県/阿蘇市/南小国町/小国町/産山村/高森町/南阿蘇村/西原村
(林業事業体) 阿蘇森林組合/小国町森林組合/NPO法人ふるさと創生/(有)岩下建設/(株)イワシタ林業/岩村創山(株)/梅本林業(阿蘇事務室)/九州ネットワーク林業(株)/(株)虎屋林業/(株)ネクストウッド/(株)豊誠産業/(株)林農