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学業優秀者を支援し世界で活躍する人材に/英進館奨学金財団 設立記念鼎談

2025/8/25 10:302025/8/25 10:30 更新)

 

 「自立した社会人の育成」を社是に掲げ、子どもたちの学びを支援している英進館(総本部・福岡市)。九州を中心に70教場を展開し、例年全国屈指の高い入試合格実績を上げている。同社では2024年夏に英進館奨学金財団を設立し、25年4月分より給付型奨学金の支給を開始。そこで奨学金財団設立の狙いや背景にある思い、次世代育成や地域社会貢献の可能性について英進館ホールディングスの筒井勝美会長と筒井俊英社長、西日本新聞社会長の柴田建哉が語り合った。(文中敬称略)

筒井 俊英 英進館ホールディングス社長(左)と筒井 勝美 会長(中央)柴田 建哉 西日本新聞社会長(右)

 

創業46年理念は変わらず

柴田 英進館は福岡を中心に九州と広島で約4万人が通う大手塾で、グループを含めると大阪や東京まで5万人が在籍しています。そもそも筒井会長がサラリーマンを辞めて、設立した経緯を教えてください

筒井(勝) 私は1979年に中学受験専門の塾「九州英才学院」を設立し、翌年は高校受験も含めた「英進館」 に社名変更しました。当時、塾の創業者は、学校の先生など教育畑の人ばかり。

 そんな中、私は九州松下電器出身で、世界を相手に新製品開発のエンジニアとして16年間仕事をしてきた異色の存在でした。日本の教育現場では競争を良しとしない風潮が少しずつ広がり「子どもた ちの心身が弱くなっている状況をどうにかしたい」「松下幸之助さんの教えの下で働いた貴重な経験を塾の経営にも生かせるだろう」と思 い、退社して塾を立ち上げました。

柴田 英進館では「自立した社会人の育成」を社是に掲げています。その狙いは何だったのでしょうか。

筒井(勝) 私自身が実社会や国際競争の中で鍛えられ、教育のゴールは「自立して社会で役に立つ人を育成すること」であると考えたからです。

筒井(俊) その理念は、創立から46年を迎えた今日に至るまで変わりません。私たちの塾にはあらゆる年代の子どもたちが通っていて、合格実績では難関校が目立ちますが、勉強が苦手な生徒もたくさんいます。

 志望校に合格するのに越したことはないものの、受験で悔しい思いをしても、どんな学校に進学しても、最終的には学校を卒業して社会人として自立する力、希望する仕事に就いて稼げるようになる力を身に付けてほしいというのが全社員に共通する思いです。保護者もそれを望まれているのではないでしょうか。

筒井(勝) 学生時代と違い、社会に出ると誰も守ってくれません。会社同士や社内でも競争があり、強靱な精神や学ぶ姿勢が必要です。ですから、英進館では創立当初から勉強だけでなく、しつけなど勉強以外のことにも力を入れてきました。

柴田 例えば、どんなことですか。

筒井(勝) 塾を始めた頃は、国語や算数などに加えて体育の授業を週1回入れて、スポーツクラブで水泳など を教えていました。進学塾でありながら、体や精神を鍛えることも必要と思っていました。塾としては珍しくホームルームの時間も設けて、偉人のエピソード紹介や、あいさつ、感謝、努力などの大切さを訴えてきました。

英進館ホールディングス会長 筒井 勝美氏

つつい・かつみ 1941年福岡市生まれ。九州大工学部を卒業後、電機メーカーに入社。79年に退職し、学習塾九州英才学院(現英 進館)を創業。現在、国内は70教場を展開。2004年から現職。

「こころの成長」成績と連動

柴田 その理念や実践が、高い合格実績に結びついているのでしょうか。

筒井(俊) 必ずしもそうとは言い切れませんが、一般的な塾より規律が厳しかったことで合格実績が上がり、生徒数も増えていったと捉えています。振り返ってみると、これまで数多くのお子さんに接してきて見えてきたことがあります。

 受験に合格するためなら単にガリガリ勉強すればいいけれど、入学した後に努力を続けられる子とそうでない子が出てきてしまう。あいさつする、感謝する、ルールを守る、計画通りにするといったベースの人間力が備わっている子は、努力を継続できているのではないかと気付いたのです。

柴田 社会人でも同様ですね。

筒井(俊) 従来から重視していた心の教育が重要と再認識して、2024年から子どもの「こころの成長」を可視化するアンケートを始めました。前向きな言葉や行動、期限付きの高い目標を立てるなど6カ条に沿った項目について、定期的に振り返り、成長の度合いを確認しています。始めて1年以内で、まだきちんとしたデータになっていないのですが、心に関する数値が上がった後に成績が伸びてくる傾向を感じています。

塾に通えない子ども支援

柴田 公益財団法人英進館奨学金財団設立の狙いや背景を聞かせてください。

筒井(勝) 塾を設立してしばらくは大変苦労しましたが、おかげさまで15年前には生徒数が3万人を超え、西日本で最大規模の塾の一つになりました。当時、非常に多くの生徒の教育に関われて、とてもうれしく思っていました。

 一方で民間の教育 機関のため、わざわざお金を払って通う家庭にしかリーチできないことが気になっていました。子どもに関わるさまざまな団体に寄付や協賛などをしていましたが、塾に通えない子どもをダイレクトに支援できたらいいなと、10年ほど前から社長とよく話していました。

柴田 10年前からそんな思いがあったのですか。

筒井(俊) そうなんです。当時、専門家の方々に相談したのですが、会社の経営基盤をもっと強化したほうが安心して始められるし、公益財団法人に認定されるハードルが高くて厳しいと感じ、いったん諦めました。その後2年ほど前、再び専門の方 に相談したところ、今なら公益認定を取れそうという見込みが立ったので、昨年、一般財団法人を設立し、1年弱で公益財団法人になれました。

英進館ホールディングス社長 筒井 俊英氏

 つつい・としひで 1969年福岡市生まれ。92年に東京大工学部を卒業後、英進館に入社。同社退社後、95年九州大医学部に入学、2001年に首席で卒業。02年英進館に復帰。04年から現職。

医学部や理工系が対象

柴田 財団の目的として「学業優秀でありながら経済的な理由により、学費の支弁が困難な学生に向けて奨学金を給付することで、将来社会に貢献し得る有為な人材の育成に寄与する」とあります。応募資格は「九州大、熊本大、長崎大、鹿児島大の医学部医学科に在籍する学生および理工系の学部に在籍する学生」となっていますが、大学を限定した理由は。

筒井(勝) 地元に恩返しをしつつ、九州から社会に貢献する人材の育成に寄与したいという思いで、地域を限定しました。その上で、当塾の中でも生徒数が多い福岡と熊本、長崎、鹿児島の4県の国立大学に絞りました。本当は九州全県と広島まで広げたいところですが、スタートの段階では身の丈に合った規模ということで4県にしました。今後、当社の基盤が強くなれば、増やしていきたいです。

柴田 「医学部医学科および理工系の学部に在籍する学生」を対象にしたのはなぜですか。

筒井(俊) 会長である父は九州大工学部、私は東京大工学部および九州大医学部を卒業しました。自分たちの経験や最近の学生を見ていても、理工系と医学系は特に学ぶことが多く、参考書などに相当お金が必要だとつくづく感じています。それなのに、文系の学部に比べると実験などでカリキュラムが多く、アルバイトの時間を捻出するのが難しいという現状があり、奨学金の対象にしました。

筒井(勝) 加えて、科学技術の分野は進歩の度合いが加速度的に速くなっており、学び続けなければなりません。さらに、医学部医学科は卒業に6年かかり、理工系の学部も大学院への進学率が高く、その分、学費がかかるので支援したいと考えました。

柴田 指定する4大学の医学部医学科および理工系の学部に在籍する学生のほかに、どんな要件がありますか。

筒井(俊) 大きく二つありまして、学業成績と人物ともに特に優れていることと、学費の支払いが困難と認められることです。経済状況は、世帯の所得合計が給与所得者は900万円以下、給与所得者以外は450万円以下に当てはまる人が対象となります。

柴田 英進館に通った経験がなくてもいいのでしょうか。

筒井(俊) はい。英進館ではリーチできない人まで応援したいというのが設立の趣旨です。元塾生でもそうでなくても、選考には全く影響がありません。

学力伸ばすハングリー精神

柴田 最近はいろいろな調査から、親の年収が子どもの学歴と比例する傾向にあることが指摘されて、問題視されています。

筒井(俊) 確かに親の年収や学歴が子に受け継がれてしまう傾向があります。ただ、それを是正するため、所得が低いご家庭のお子さんが塾などに通うための助成制度が出てきています。

 例えば、条件を満たせば福岡市は1人年間12万円まで助成があり、当塾だけでも300人ほどが利用されています。高校無償化のほか、大学なども子ども3人以上の世帯は無償化するなど、少し是正する動きが出ているようです。

柴田 いろいろな家庭を見て、感じることはありますか。

筒井(俊) 経済的に恵まれた生徒は、いい教育を受けるチャンスが圧倒的に多いのですが、一方でハングリーさがないと感じることもあります。いろいろなことに満腹で、もういいやと思ってしまうのでしょうか。

 反対に、経済的に厳しい家庭で我慢してきた子どもはハングリーで、塾に来る機会に恵まれると伸びる確率が圧倒的に高いんですよ。 ハングリー精神は大切で、経済的に恵まれないけれど勉強したいと思っている子には、当財団の奨学金も含めてサポートしていくことがすごく重要だと考えています。

柴田 福岡でも企業や団体の間で、学生に奨学金を給付する動きが出始めました。これからの日本を担う人材の育成について、企業も危機感を持っているようです。

筒井(俊) 世界共通のこととして、子どもや教育がその国の未来を決めます。とりわけ今の日本は少子化が進み、一昔前の1学年250万人が今や70万人に。国の競争力を付けるには、戦力が3、4分の1になっている分、3、4倍頑張ってもらわ ないといけないけれど、あまり頑張れない子が多くなっている気がします。

筒井(勝) 悪循環に陥り、このままではマズイと危機感が募っています。ですから、私たちは未来を担う人材の育成に関わって本人や社会に刺激を与えたいし、できれば他の企業も奨学金を検討して、後に続いてもらえるとうれしいです。

西日本新聞社会長 柴田 建哉

しばた・けんや 1959年福岡県生まれ。北海道大経済学部を卒業後、84年に西日本新聞社入社。バンコク支局長、報道センター部長、営業本部長、社長を経て、2024年から現職。

軸をぶらさず新規事業も

柴田 少子化が進む中、英進館で新しく取り組んでいることはありますか。

筒井(俊) 少子化で約40年間子どもが減っても、ずっと右肩上がりで成長してきました。しかし、コロナ前から少子化が加速しており、今までの延長線上では厳しい状況です。各学校の合格者における英進館生のシェアは下げることなく、少しでも伸ばしたい。そこで、並行して二つのことを進めています。

 一つは、この10年で企業の合併・買収(M&A)案件を増やしてきました。もう一つは、コンサル会社やベンチャー企業と組んで、新規事業も立ち上げています。

柴田 すでに新規事業を立ち上げているのですか。

筒井(俊) 利益が出ている事業が三つあります。まずはバーチャルキャンパスで、インターネットの仮想空間「メタバース」に校舎をつくり、英進館と全く同じ授業をしています。不登校の世界では進んでいますが、塾ではあまり前例がなく、募集を始めた途端、1日で100人ほどから問い合わせがありました。始めてみると大好評で急成長しています。  

 二つ目がレンタルスペースで、いい立地にありながら昼間は空いている塾の教室をピンポイントで貸しています。あとは、もともと作っていた問題と答え、動画などを生かして、問題集などの出版事業も始めました。新規事業の売り上げはまだ全体の1%ですが、利益率が高いのが特長です。

柴田 ストックをうまく活用されているのですね。最後に、英進館ホールディングス、そして英進館奨学金財団として、将来の展望を教えてください。

筒井(勝) 関連事業を広げつつも、46年前の設立当初から掲げてきた「自立した社会人の育成」という軸は、これからも貫いていくつもりです。財団では奨学金を通して、学ぶ意欲のある学生をサポートし、高度な医学・理工系人材が優れた技術や産業の発展を促進することを願いつつ、九州から社会に貢献する人材の育成に寄与していきます。

選考委員からのメッセージ

地域や社会の可能性を拡大

福岡・太宰府天満宮宮司 西高辻 信宏氏

 学問の神様と仰がれる太宰府天満宮の御祭神 菅原道真公。道真公が学問に打ち込み、世のために活用したように、いつの時代も学びの持つ重要性は普遍的なものがあります。現在の教育環境を鑑みると、経済格差や地域格差、また優秀な人材が海外に流出している実情など、解決すべき多くの課題があります。

 その中で、福岡を中心に45年以上にわたり学びに携わり実績を残してきた英進館を中心に設立された財団による奨学金制度は、九州で学ぶ志ある学生たちにとっての希望であり、未来への種まきとも言え、大変意義深いことであると感じております。  

 未来を担う学生たちをサポートすることは、その地域や社会の可能性を広げる力になります。本事業を契機とし、九州で学んだ誇りを胸に、社会に貢献していく人材が育っていくことを願っています。

英進館奨学金財団 奨学金制度のポイント

4大学の医学・理工系学生が対象

 九州大、熊本大、長崎大、鹿児島大の医学部医学科に在籍する学生および理工系の学部に在籍する学生を対象とする。成績(原則、前年度までの成績〈GPA〉が3.00以上など)、世帯の所得合計(給与所得者900万円以下、給与所得者以外450万円以下)などの要件がある。

返済義務なしの給付型

 医学部医学科は6年間、理工系の学部学科は4年間、月4万円を給付する。毎年更新する必要がある。

1年に8人程度を採用

 九州大、熊本大、長崎大、鹿児島大の、医学部医学科に在籍する学生4人程度、理工系の学部学科に在籍する学生4人程度の計8人程度を採用予定。各大学の医学部医学科・理工系の学部学科から各1人を原則とする。

公益財団法人 英進館奨学金財団とは

 英進館ホールディングスと筒井勝美会長、筒井俊英社長、3者で2024年8月に一般財団法人英進館奨学金財団を設立。25年5月には公益財団法人に認定された。学業優秀でありながら経済的な理由により学費の支払いが困難な学生に奨学金を給付し、将来社会に貢献する有為な人材の育成に寄与することを目的としている。

学業優秀者を支援し世界で活躍する人材に/英進館奨学金財団 設立記念鼎談|【西日本新聞me】