日台の金融、産業、人、交流深化へ/玉山銀行が福岡支店開設
台湾の有力銀行・玉山銀行が、東京に次ぐ日本で2番目となる福岡支店を、福岡市の天神ビジネスセンターに開設した。台湾非政府系銀行として中小企業向け融資でトップシェアを誇り、熊本で工場を稼働させる半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)や九州に進出するサプライチェーン(供給網)企業向けに、金融支援に取り組む。九州の企業の事業展開も後押しするという同行の取り組みと、これからの経済をはじめとした九州と台湾の交流について、玉山銀行の黄男州董事長と台北駐福岡経済文化弁事処の陳銘俊処長、西日本新聞社の柴田建哉社長の3人に語ってもらった。(文中敬称略)
最高峰のサービスを
柴田 東京に続く支店を福岡市に開設しました。どうして福岡を選んだのですか。
黄 まず行名の由来から説明させてください。玉山という山は台湾の最高峰で最も美しい山です。私たちが最も優れた金融サービスを顧客に提供するように、との意味を込めています。日本においても同様の役割を果たしていきたいと思っています。 日本経済は、外国の投資が増えて株価が上昇し、新たな時代を迎えています。2017年に開設した東京支店は、国際預金や送金、企業の運営資金業務でも順調に収益を上げています。
余談ですが、その年の7月、25人の同僚を連れて富士山に登りました。富士山に登ることは玉山より遥かに難しいです。ちょうどその年が玉山銀行の25周年だったので、25人で順調に頂上まで登りました。それでご来光も見ることができて、皆で喜びを分かち合いました。
日本国内で九州は半導体のほか自動車、バイオ産業が発達し、それらで台湾と連携できると感じました。当行の顧客も九州に大きな興味を示しています。九州をエリアとして、中でも人口が最も多い福岡に拠点を構えました。九州の面積は台湾と同じくらいで人口はおよそ1300万人弱。かつ台湾と距離がすごく近いということも理由の一つです。
1965年生まれ、台湾清華大卒。ハーバードビジネススクール、
玉山ファイナンシャルホールディングス(HD)総経理などを経て現職。
玉山HD董事長も務める。
柴田 国際金融都市を目指す福岡市にとって玉山銀行の支店開設は意義が大きい。九州、台湾双方の企業にどんなサポートを展開しますか。
黄 台湾企業が九州に進出する際、九州経済連合会や福岡商工会議所などへの加盟を希望するかもしれません。当行は既に会員になっており、橋渡しに対応できます。
金融では、顧客が融資やローンを希望すれば福岡支店でもちろん対応しますが、支店1カ所では限りがあります。支店と離れた場所で事業展開を希望するならば、(九州フィナンシャルグループ傘下で)業務提携を結ぶ肥後、鹿児島両銀行とプラットホームのような形で協力し、離れた場所においてもサービスを提供することが可能です。
逆に九州の企業が台湾やアジアに進出する際、アジアをはじめ10カ国に31拠点のネットワークを持つ当行の福岡支店で、アジアに関するサービスを提供できるでしょう。
柴田 玉山銀行は中小企業支援も力を入れているとお聞きしました。
黄 台湾の民営銀行の中で、中小企業への融資は私たちがトップシェアを誇ります。九州にも中小企業がたくさんあり、台湾と同じく事業承継の課題に直面しています。創業者が会社を整えたものの、事業を自分の子どもに引き継ぐのか、それとも他の会社と合併するのか、専門的な人に委ねるのか。
九州でも同じような問題を抱える人が多く、そういった日本と台湾の中小企業を互いに組み合わせ、技術、産業の交流を深めようと考えています。
陳 玉山銀行は先見の明があり、発展のスピードが早い。今回の福岡支店が始まりとなり、これから他の銀行もビジネスチャンスを見込んで日本に進出する、と私は聞いています。
TSMC進出に期待
柴田 TSMCの熊本工場がいよいよ来年、稼働予定です。その波及効果に九州の期待は高い。
黄 TSMCは台湾国内でとても大きな存在です。株の時価総額は台湾の株式市場全体の約25%を占める。今、製造している半導体もあらゆる面、例えばパソコン、携帯、自動車に使われ、世界的にも重要な会社になっています。世界への進出も早く、2018年に南京で工場を作り、熊本の工場のほか、米アリゾナにも作っています。ドイツでも今検討している状態です。
九州はもともと1980年代にシリコンアイランドと言われた地域。半導体のほか自動車の生産拠点が集まる九州全体のサプライチェーンをもう一度、繁栄させることにつながると考えます。
TSMCが工場を造ることで、台湾のサプライチェーンも進出し、九州の企業との融和や協力を考えるはず。例えば台湾の会社が材料の調達を、九州や熊本で求めるかもしれません。TSMCが半導体製造の工程で日本において最終テストをすればその技術が九州に残ります。こういう積み重ねが、日台の半導体生産の大きな組み合わせになっていくでしょう。
陳 台湾の人たちは世界一、日本が好きです。日本の皆さんもアジアで一番信頼できる国は台湾だと思っているでしょう。半導体の取り組みもそうで、世界一の先進的な半導体を誇る台湾と、素材の面で世界一の日本が手を組めばすごく強くなる。TSMCが九州に進出する意義は大きい。やっとだな、と思いました。
柴田 経済効果の一方、熊本の工場周辺における交通渋滞や人材確保などの課題も浮かんでいます。
黄 岸田文雄首相も言っていますが、TSMC進出により、10年間で4兆円の経済効果と、7千人の雇用が生まれると見込まれます。長い目で見ると、雇用する人材をどう育てていくかが課題です。サプライチェーンに関しても、今、九州の関連企業は分散しすぎて、途切れたところもあります。将来、いかにこういう企業をつないでいくか考えなければなりません。
台湾では、半導体や液晶パネル、精密機械など製品ごとに科学園区(サイエンスパーク)に分かれ、例えばTSMCの周辺は全てサプライチェーンに囲まれ、各関連企業が切れ目なくサービスを提供しています。土地は政府のもので、稼働に必要な水道や電気設備が整備された状態で貸し出されるため、進出する企業にとって、初期費用はかなりコストダウンされます。
企業が進出しやすく、次から次につながりができるため、こういう区域が九州にできれば、すごく大きな影響をもたらすでしょう。TSMCが進出する熊本県菊陽町はまだ「点」の状態。関連企業を地域にどうまとめていくか、日本政府は参考になるはずです。
柴田 TSMC進出のチャンスを、九州全体で生かすには何が必要でしょうか。
1964年生まれ、中国文化大学卒。大阪外国語大学博士、ハーバード大学客員研究員。
外交部入りし、台北駐日経済文化代表処代表特別補佐、外交部北米局、
台湾総統府機要室主任などを経て現職。
陳 まず台湾をもっと理解してほしい。台湾はなぜ親日家が多いのか。国民性や心理、文化、日本との歴史のつながりを含めてです。
というのは、お互いに協力する大きなチャンスだけど、台湾は世界的に孤立させられ、非常に寂しい国です。だから友達がほしい。日本に地震や水害があると台湾は誰よりも先に支援します。それは本当に日本を愛しているから。根本を理解しておいてほしい。
台湾と日本、特に台湾と九州はもともと最も緊密な関係にあったのですが、残念なことに、ご存じの方が非常に少なく、だんだん忘れられてきました。日本は50年間台湾を統治し、その間、台湾は反日国家になってもおかしくなかったのですが、そうじゃなくて親日国家、しかも世界一の親日国家になりました。その答えは九州と山口にあります。初代~7代までの総督は殆どが九州、山口ゆかりの方です。命をもって、体を張って台湾を愛してくださった九州人がたくさんいた。これが答えです。だから台湾と九州はもともと本当に心から協力し合って、日本の中の都道府県のどこよりも九州は一番台湾を重要視して、今までのつながりをもっと活用して生かして、緊密な関係を築いていこうとすべきなのです。これまで、あまりそういうことがなかったようですが、これからは違うと思います。
1959年生まれ、北海道大卒。西日本新聞社社会部、
バンコク支局長、営業本部長などを経て現職。
柴田 西日本新聞の記者がいま台北に駐在していますが、4月から約半年たち、コロナが落ち着いて、台湾から日本に行く人が圧倒的に多いようです。やはりすごく日本好きだと感じるそうです。同時に、TSMCが進出した影響で、台湾に視察に訪れる九州の企業関係者が昔に比べたらすごく増えているようです。また、経済とは直接関係ないですが、台湾の人は、人と人との距離が非常に近く、お店に行ってもすぐ話かけてくるし、電車などに乗ってもみんなすごく親切だと聞いています。これは日本と全然違うと話していました。
黄 TSMCがきっかけで、両国の往来がさらに深まると確信します。第1工場が年内にも完成し、来年から稼働します。その次ですが、私たちが知る限り、日本政府は先端企業などと2㌨㍍以下の半導体製造の研究をし始めており、今後そこにTSMCが協力を求められるかもしれません。日本は基礎研究が優れて材料が整っている。それが手を組めば、世界に大きな影響をもたらします。
九州の地と融和する
柴田 九州と台湾の関係をあらゆる場面で深めていければいいですね。
陳 私は九州びいきなので、九州、山口の自治体や企業に呼びかけたいのは今、台湾と協力する絶好の機会。この電車に乗り遅れるなと。例えば九州の市町村が台湾の市町村と姉妹提携しようとしても、台湾は数が少なく、後になったら機会がなくなる。
黄 日台双方がより多くの交流を重ねることが重要です。例えば6月にアクロス福岡で開いた日台友好のコンサートには、日本から福岡ソフトバンクホークスの王貞治会長をはじめ、福岡県知事と政治家などの方々、企業関係者、一般の方々ら約1700人に来場いただき、すごく良かった。
7月にも肥後銀行と日台経済交流のイベントを開いて、1500社ぐらいが参加しました。同月末にはJCBと組んでくまモンのクレジットカードを発行しました。熊本県にくまモンの使用権を無償で提供していただいて、記者会見の際にはくまモンに出ていただいて、すごくありがたかったです。
政府間はもちろん、産業界、民間人の交流も今後増やしてほしいと願います。九州は水資源があり工業、農業なども充実。これらの交流を深化させることが、金融の交流も深め、九州にも台湾にもすごく有益になると思います。
(鼎談場所の福岡支店に掲げられている)この絵をご覧ください。30匹のチョウが描かれています。いずれも日本と台湾に実在するチョウですが、一匹のチョウには2千キロ飛ぶことができて、台湾から九州まで飛ぶことが可能で、九州から台湾に飛ぶこともできる。台湾と日本の交流がさらにしやすくなるだろうと考えます。
柴田 9月にマリンメッセ福岡であった、アジアをコンセプトとしたアートフェアのパンフレットを見ると、協賛企業の最初に玉山銀行の名前があり、びっくりしました。支店を開設してすぐに文化事業にかかわる目的はどこにあるのでしょうか。
黄 もちろん第一に優先するのは金融ですが、福岡に支店を開設する上で、地域に溶け込まないといけない。そのため福岡市からの誘いを受け、地元の産学官が一体となって国際金融機能を誘致する「TEAM FUKUOKA」にも入りましたし、先ほど話したように九州経済連合会と福岡商工会議所も入りました。
今回のアートフェアアジア福岡2023に関しては当行がスポンサーの1社になり、台湾からの芸術品の選出にも携わりました。選んだ作品の画家は日本に留学した経験がある方です。これからは文化や芸術の分野でも交流を深め、台湾の文化や芸術を福岡に紹介し、福岡の優れたものも台湾に紹介したいです。
プラットホームを組む肥後、鹿児島両銀行とも金融、経済交流のほかに、社会活動をどう行うのかを勉強します。肥後銀行を訪れた際、阿蘇にある森の保全に力を入れていると聞きました。うちは台湾の玉山に10万本の木を植える予定で、100年間、お世話をすることを約束しました。
鹿児島銀行を訪ねた際は、本店1階に地元農家の農産品を出品し、売り込みに力を入れていると聞きました。台湾にも優れた果物や農産品があるので、ここで台湾をテーマにした「台湾フェア」などを企画したらどうか提案してみました。 両行とも、文化や環境の交流を通じてお互いの顧客をつなげたいと思います。