台湾・玉山銀行 九州へ着実に浸透~第3の拠点、熊本出張所を開設~
台湾の有力銀行である玉山銀行が昨年、福岡市の天神ビジネスセンターに福岡支店を設けて1年を迎えた。この間、九州に進出した台湾企業や地元企業への金融支援に取り組みつつ、今年10月には日本で第3の拠点となる熊本出張所も新たに開設した。スポーツイベントを通じて台湾を紹介するなど多彩な取り組みも続け、九州への浸透を着実に図る。日台の親交が厚みを増す中、黄男州董事長をはじめ同行幹部4氏に、九州でのこれまでの取り組みと、今後の展開を語ってもらった。(本文は敬称略)
「1+1」全体カバー
―日本では2017年の東京支店に続き、昨年7月に福岡支店を構えました。手応えはいかがでしょう。
黄 東京支店は日本に進出している台湾企業や国際企業向けにサービスを提供しており、大型案件に融資するプロジェクトファイナンスや国際シンジケートローンを中心に、業務規模や利益を拡大させています。
台湾と日本の経済交流が深まる中、第2の支店の場所を検討しました。九州は日本で4番目の経済圏であり、福岡市はその経済、文化、交通の中心です。活気ある企業や台湾企業も集まっているため、昨年の開設に至りました。1年たちますが、福岡支店も業務規模は順調に拡大しています。
久保 福岡支店は、台湾から進出した企業や顧客、九州の地元企業を対象に、主な業務として融資や不動産融資、預金や送金サービスを手がけています。台湾と九州が占める割合はそれぞれ5割ずつぐらいのボリューム感です。
昨年、宮崎県内の企業の事業承継に関し、もともと取引があった鹿児島銀行と当行福岡支店、それに肥後銀行の3行が共同で融資するという実績も生まれたところです。
―福岡支店に続く第3の拠点として10月、新たに熊本出張所を開きました。その理由を教えて下さい。
林 熊本県では、半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が第1工場を建設し、第2工場の建設も決めました。それに伴い、地元行政によるインフラ整備や投資サポートが進み、サプライチェーン(供給網)の進出や不動産投資の拡大が見込まれます。
半導体産業が同県を中心に発展する一方、熊本は面積が広いため、顧客にもっと早く、緊密な金融サポートをするために出張所を設立することにしたのです。
黄 TSMCの熊本における第1、第2工場を合わせた投資額は200億㌦(約3兆円)という規模です。そのため、九州進出に興味を持つ台湾のサプライチェーンは、大手も含め約50社に上るともいわれます。台湾だけでなく、日本や海外のサプライチェーンが集まる可能性もあります。
TSMCの拠点は、日本だけでなく、米アリゾナやドイツ・ドレスデンにも整備されつつあり、グローバル化が進んでいます。TSMCだけでなく、台湾のサプライチェーンも一緒に海外進出して発展するというシナジー(相乗効果)が期待されています。
また、台湾の郭智輝経済部長(経済産業相)には、台湾のシリコンバレーとも言われる「新竹サイエンスパーク(科学園区)」と同じような地域を、台湾だけでなく、世界に展開したいとの思いがあります。「境外関内」と呼ばれる構想で、盛んに提唱しています。
例えばTSMCが熊本に工場を建設するのに合わせて、九州に「半導体サプライチェーン園区」が設けられれば、台湾の関連企業が九州で発展する機会を増やすことができます。これにより、中小企業が台湾国内と同様に海外でも生産を行えるようになり、TSMCや日本企業にも近接してサービスを提供できるようになります。一つの企業だけでなく、サプライチェーン企業を集めて、みんながサイエンスパークの中で緊密に交流し、法律や税制面で支援を受けるというものです。
今回、福岡支店と熊本出張所が連携して「1+1」という形で九州をカバーし、半導体産業が進出するトレンドの中、TSMCはもちろん、サプライチェーン向けの必要な情報や融資、金融サービスを提供する機会を探り、産業を支援する考えです。
山崎 出張所は私が所長を務め、日本語、中国語、英語が流ちょうな台湾人スタッフもそろい、いろんなお客さまに対応できます。また、熊本におけるTSMC進出の影響ですが、昨年から台湾―熊本の直行便が就航しており、熊本市内の商業施設では台湾人の利用者がすごく目立ち、訪問客が増えたという印象です。
熊本は半導体産業のほかにも、観光や農業が盛んだという話が台湾に広がり、熊本城や阿蘇山は台湾の人にとって人気の観光スポットになっています。
また、日本人はすごくフレンドリーに接してくれるとの声もあります。タクシーに乗ると「どこから来ましたか」と声を掛けられたり、入った店では台湾人向けの割引があったりして、台湾人にとって全体的にとても優しいというイメージが持たれているようです。
事業承継も手がける
―今年4月には、投資会社である玉山ベンチャーキャピタル(VC)が、肥後銀行や日本M&Aセンターホールディングス(HD)と共同で、事業承継専門の新会社を設立しました。
林 統計によると、九州では中小企業経営者の55%が65歳以上を占め、昨年は残念なことに5千社以上が廃業したと聞きます。設立した新会社「九州M&Aアドバイザーズ」は、M&A(合併・買収)を通じ、後継者不在の企業と、買収での事業拡大を目指す企業をマッチングするものです。
久保 肥後銀行が持つ企業情報と、日本M&AセンターHDの事業承継ノウハウを組み合わせ、当面、拠点を置く福岡をメインに事業承継のサービスを提供します。玉山VCが加わったのは、台湾もいずれ、企業の後継者不足に陥ることが考えられるからです。玉山銀行の福岡支店開設を機に、日本における事業承継のビジネスを中長期的に学ぼうという狙いがあります。
―逆に、九州から台湾に進出を目指す企業に対し、玉山銀行はどういったサービスを行うのですか。
山崎 台湾の消費者は、日本企業の商品やサービスが優れていることを知っています。玉山銀行は、進出を希望する日本企業に対し、日本語が堪能なスタッフによる専門チームを設け、口座開設や法人手続き、融資などで進出を後押しします。台湾に139ある支店のネットワークを活用できますし、福岡支店、そして今回新設した熊本出張所でも気軽に相談できます。
今年9月には台湾の玉山銀行第2本社ビルで、肥後銀行と鹿児島銀行が「日本・九州の逸品商談会」を開きました。会場には、約50社の日台企業に参加をいただきました。日本企業が製品を展示し、台湾企業と交流を深めるものです。また3行がその場で相談に応じ、参加した企業が日台両国の投資環境について、迅速で効果的なサービスを受ける場にもなりました。
始球式でもアピール
―玉山銀行は金融面以外でも九州との交流を深めています。6月にみずほペイペイドームであったプロ野球ソフトバンク戦を「台湾デー」と銘打ち、黄董事長は始球式で投球しましたよね。
黄 台湾デーにおいて、私たちはスポンサーを務めました。台湾と日本は野球ファンが多い点で共通しており、例えば、米大リーグで活躍する大谷翔平選手は、日本だけでなく台湾でも非常に人気が高いのです。
当日、入場したお客さま皆さんに記念品を提供し、球場の大型ビジョンでは玉山銀行のPRはもちろん、台湾の観光名所などを宣伝し、台日友好のメッセージを伝えたところです。
余談ですが、私はマウンドに立って興奮する一方、「ホームベースまでこんなに遠いのか」と実感しました。事前に、短い距離からだんだんと距離を伸ばして投げる練習をしていたので、本番ではうまく投球できました。王貞治球団会長からは「緊張しないで」と声をかけられ、ユニホームにはサインも頂きました。
私は、王球団会長がこれまで野球界に多大な尽力と貢献をされたことに対し、心から感謝をお伝えしました。台湾と日本の野球による交流促進への尽力にも感謝しています。玉山銀行は、台湾で長年にわたって青少年野球大会「玉山盃」を支援しており、その前身は「王貞治盃」でした。当行はこれからも優れた選手の育成に力を入れていきます。
―他の事業でも交流に積極的ですよね。
黄 9月に福岡市で開かれた「アートフェアアジア福岡 2 0 2 4」は、今年も協賛に加わりました。台湾の有名な画家を招き、日本の画家とコラボで山の景色を一緒に描いてもらいました。来年2月の熊本城マラソンはスポンサーを務めるだけでなく、私たちの行員の出走も考えています。
―行政との連携も進んでいます。
黄 熊本市の大西一史市長が今年1月、台湾の玉山銀行本店を訪れたのをきっかけに、玉山フィナンシャルホールディングと同市は4月、台湾と熊本の経済、観光、スポーツなどの分野で交流を促進する包括的連携協定を締結しました。
これは同市が海外企業と結ぶ連携協定としては初めてのもので、大きな意味を持ちます。この協定を基に、観光やスポーツはもちろん、例えば台日投資セミナーを開いて、熊本の企業が台湾に進出したり、台湾の企業が熊本に投資したりして、台日のさらなる協力と共通の利益をもたらすことを期待します。
玉山銀行はこれからも、台湾と九州の架け橋であり続けます。