福岡女学院が示す学びの航路 │ 時代が求める人材育成 理系学部の新設準備
1885年の創立以来、時代の先駆けとなる女子教育の歴史を刻み続ける福岡女学院(福岡市南区)。キリストの教えを理念に、幼稚園、中学、高校、大学、看護大学からなる「総合学園」として発展を遂げてきた。
不変の人間教育を基盤にしながら、現代社会の要請に応えるため、2028年度には理系の新学部、文系の新学科の設置を予定するなど知の拡張を加速させる。多様化する世界を切り開く女性たちへ示す「学びの航路」はいかなるものか。廣田りょう理事長に、西日本新聞社の 田川大介社長が聞いた。(本文は敬称略)

福岡女学院理事長
廣田 りょう氏
ひろた・りょう 早稲田大学政治経済学部卒業後、福岡銀行入行。ニューヨーク支店次長、国際部課長、信用リスク管理室長、ふくおか債権回収取締役などを経て、九州大学医学系学府医療経営管理学専攻修士課程修了、久留米大学常務理事、西南学院評議員、2020年福岡女学院理事、24年4月から現職。
キリスト教に基づく 140年不変の役割
田川 昨年、創立140周年を迎えた福岡女学院は、福岡の街で長く「ミッション」という愛称で存在感を放っています。社会に対し、果たし続けている「変わらぬ役割」とは何でしょうか?
廣田 本学院は創立以来、キリスト教精神に基づく女性の自立、地位向上に向けた教育を行ってきました。それはこれからも変わりません。「信じる心を基として、愛をもって隣人と共に生き、豊かに実を結ぶ」人間の育成。それに加えて地域、社会に貢献する研究を続けることが私たちの役割です。
田川 混迷を深める現代において、キリスト教の精神の意義は何でしょうか。
廣田 世界では対立による分断が顕著になっています。この分断を乗り越えるために「自分とは異なる他者を、かけがえのない存在として受け入れる」という隣人愛の姿勢が、人間関係、社会関係、国際関係の構築につながります。それこそがキリスト教精神の現代的意義だと考えています。
中・高の段階から「志」を掘り起こし
田川 28年度、福岡女学院大学は、英語を強みとする文系に加えて、初の理系学部となる「情報工学部情報システム学科」設置の構想があるそうですね。学ぶ内容と新設の狙いを教えてください。
廣田 新設の目的は、時代が求める人材の育成です。いつの時代でも環境変化はありますが、今は言うまでもなく少子高齢化による生産年齢人口の減少が大きな課題となっています。不足するマンパワーに代替するもの、例えば生成AI(人工知能)などのスキルを学ぶ情報工学に対し、社会からの要求度は非常に高まっています。
学生が安心して学べるように少人数制にし、ウェブエンジニアリング、一般企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進、個人起業家などの人材輩出を目指します。
田川 同じく28年度には人文学部の言語芸術学科とメディア・コミュニケーション学科を再編し「感性メディア学科」が誕生予定です。
廣田 こちらも社会の需要が大いに高まっている分野です。人の心の動きが生み出す表現や芸術を、メディアによって効果的 に伝えることができる人材の育成を狙います。「感じる、考える、表現する」というプロセス を通して価値を生み出すことができる人を育成します。
卒業後は商品開発、ウェブデザイン、グ ラフィックデザイン、フォトグラフ、広告プランなどに携わることを想定しています。
田川 福岡女学院では、伝統的に感性を磨くための豊かな教育がなされている印象です。生徒はパイプオルガンの伴奏により、讃美歌を歌っています。また、高校音楽科ではクラシックに基づいた教育に加え、響創コースでは音楽と社会をつなぐための学びも提供されているとのことです。他にも、豊かな自然の中での幼稚園など、まさに感性を醸成するユニークな教育環境が整っていると感じます。
新しく学部、学科をつくることで、学園全体に与えるインパクトは大きいものになりそうですね。

西日本新聞社社長
田川 大介
たがわ・だいすけ 西南学院大学文学部卒業後、西日本新聞社入社。事件、司法、政治、医療などを担当。社会部長、編集局総務、メディア戦略局次長などを経て、2022年6月取締役編集・論説担当、編集局長。24年6月から現職。
廣田 「福岡女学院が大きく変わる。新しい取り組みをしている」というメッセージになるはずです。本学院は総合学園であるため大学生の近くに中学、高校の生徒もおり、交流も頻繁に行っています。新しい時代で活躍しようとしている先輩を目の当たりにし「私もその道に進みたい」という志を中学・高校の段階から掘り起こすことができると期待しています。
三つのテーマを軸に掲げる将来への道筋
田川 2035年の創立150周年に向けて進むべき道筋となる「MissionVision2035 」を策定中とのことです。どのような将来像を描いていらっしゃいますか。
廣田 「総合学園」「社会連携」「組織強化」という三つのテーマを軸に、計画を作っています。その中には、中期計画として 既に進行しているものもあります。24年から25年にかけて竣工した中高の校舎では、ICT(情報通信技術)設備を設置しました。保育の低年齢化という社会的ニーズに応えるための幼稚園の教育環境整備も進めています。総合学園として、これらを今以上に有機的に回していき、教育基盤を強固にします。そうすることで、次の時代へとバトンを渡すことができると考えています。
新設の準備を進めている情報工学部の新しい建物には、実証実験ができるスマート棟やエコキャンパスとしての要素を持たせる予定です。社会連携へとつなげていくことを目指します。28年に20周年を迎える看護大学では、大学院博士課程の構想があります。また、全国から注目を集めているシミュレーション教育センターをさらに充実させていきます。
田川 中高大一貫教育をはじめとする総合学園の強みを感じました。そうした環境では、知識を得るだけでなく、友達と深く付き合うことができ、人間性を高めます。福岡女学院を卒業した人の多くは強いリーダーシップを持っている印象もあります。
廣田 本学院が送り出した卒業生は7万人。多くの方が社会で活躍しています。枠にとらわれない自由な雰囲気と、女子だけで伸び伸びと学べる女子教育ならではの環境が、学生たちの積極性を自然と育んでいるのだと思います。