地域の未来を守る事業承継 連携で支える中小企業の持続的発展
中小企業経営者の高齢化と後継者不在が深刻化する中、事業承継は企業単体の課題にとどまらず、地域社会全体の持続性を左右する重要なテーマとなっている。こうした状況に対し、支援機関の連携強化や自治体との協働により、地域全体で事業承継を支える新たな動きが広がっている。現場の最前線で取り組みを進める松岡守昭氏に、現状と課題、今後の展望を聞いた。
福岡県事業承継・引継ぎ支援センター 統括責任者 松岡 守昭氏
福岡商工会議所職員として中小企業支援に従事。2011年に経営相談本部長に就任以来、7年間にわたり福岡県事業承継・引継ぎ支援センターの運営に携わる。2022年10月から福岡県事業承継・引継ぎ支援センター統括責任者に就任し現在に至る。商工会議所で培ったネットワークと実務経験を生かし、事業承継支援を通じた地域企業の持続的発展に取り組む。
――事業承継を取り巻く現状についてどのように見ていますか
現在、中小企業の経営者の高齢化が進み、後継者不在の問題はこれまでにない規模で顕在化しています。事業承継が進まなければ、企業の廃業が増加し、雇用や取引関係、さらには地域で長年培われてきた技術やサービスが失われることになります。
私は、事業承継は単に一企業の課題ではなく、地域経済の継続性に関わる社会的課題であると捉えています。例えば一つの企業が廃業することで、雇用の喪失に加え、部品やサービスの供給が途絶え、地域の生活基盤にも影響が及びます。
特に小規模事業者の場合、その存在は地域に密着した“生活インフラ”とも言えるものであり、その喪失は地域の活力低下に直結します。こうした現状を踏まえ、事業承継をいかに円滑に進めていくかが、今まさに問われていると感じています。
経済産業省・中小企業庁は、地域住民の生活に欠かせない小売りや交通、物流などの「エッセンシャルサービス(ES)」の維持に向け、これらを担う事業者に対する支援を強化する方針です。
ES供給の持続性を確保するためには、事業者の採算性を継続的に確保することが不可欠であり、そのためには経営の合理化や経営者の若返り、後継者の確保が重要となります。こうした観点からも、早い段階から事業承継を検討し円滑に進めていくことが求められています。
――課題解決に向けた取り組みについて教えてください
これまでの事業承継支援は、個々の企業ごとに対応する側面が強かったのですが、現在はそれだけでは十分とは言えません。
そこで重要になるのが、自治体や商工団体、金融機関などが連携し、地域全体を“面”として支える体制の構築です。こうした考え方のもと、福岡市においては福岡事業承継コンソーシアム「FUKUOKA LINK」が発足しました。
この取り組みには、福岡市を中核に九州経済産業局、福岡財務支局をはじめ、商工会議所、商工会、金融機関や士業団体など多様な21の関係機関が参画しており、それぞれの支援機能を持ち寄ることで、切れ目のない支援を実現しようとするものです。
従来は、相談先が分からない、あるいは支援が分断されているといった課題もありましたが、こうした連携により、事業者にとってより利用しやすい環境を整えることが可能になります。
事業承継を地域全体で支える仕組みが整いつつあることは、大きな前進であると感じています。

――小規模事業者の承継についてはどのように考えていますか
特に懸念しているのが、小規模事業者の事業承継です。年間売上規模が比較的小さい事業者は、民間のM&A支援の対象になりにくい傾向がありますが、地域にとっては欠かせない存在です。
例えば、地域の飲食店や商店、サービス業などは、前述のエッセンシャルサービスを担う事業者と同様に、地域の活力や住民の生活を支える重要な役割を担っています。これらが失われることは、単なる経済的損失にとどまらず、地域の暮らしそのものに影響を及ぼします。
そのため、たとえ廃業という選択をする場合であっても、そこにある設備や技術、人材、顧客といった“経営資源”を次につなぐことが重要だと考えています。
企業の価値は決して規模だけで測れるものではありません。地域にとって必要な機能をどう残していくかという視点が、今後ますます重要になると考えています。
――経営者の意識や心理面についてはいかがでしょうか
事業承継が進まない背景には、制度や環境だけでなく、経営者の心理的な要因も大きく影響しています。
「まだ考える段階ではない」「自分の代で終わっても仕方がない」といった思いから、相談が先送りされるケースは少なくありません。また、引退後の生活への不安や、事業を手放すことへの抵抗感も大きな要因です。
しかし、事業承継は決して特別なものではなく、すべての経営者に関わるテーマです。早い段階から準備を進めることで、選択肢は大きく広がります。私どもとしては、こうした心理的なハードルを下げるため、できるだけ相談しやすい環境づくりに努めています。“間口は広く、敷居は低く”という姿勢で、どのような段階のご相談でもお受けしています。
――今後の展望についてお聞かせください
今後、こうした連携の取り組みをさらに深化させていくことが重要だと考えています。
事業承継を進めるうえでは、個社単位の支援に加え、地域全体の産業構造やサプライチェーンを意識した対応が不可欠です。例えば、一社の廃業が取引先へ波及し、地域経済全体に影響を及ぼすケースもあります。
そのため、支援機関がネットワークを強化し、地域として最適な形で事業をつないでいくことが求められます。自治体との連携を含めた取り組みは、今後さらに重要性を増していくと考えています。 事業承継は、企業の存続にとどまらず、地域の未来を形づくる取り組みでもあります。経営者の皆様には、一人で抱え込まず、早めに相談していただきたいと考えています。
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