古賀式 私の朝プロジェクト ~人生を楽しくする古賀市の朝活~

朝食の習慣化を柱とした古賀式 私の朝プロジェクトがこの春、福岡県古賀市でスタートする。同市、福岡工業大学、株式会社明治、福岡県醤油工業協同組合、西日本新聞社が手を組み、セミナーや出前授業、レシピ開発などさまざまな取り組みを進める予定だ。朝食はなぜ重要なのか。プロジェクトの意義や目指すゴールとは―。初年度を前に、産学官連携のリーダーである古賀市の田辺一城市長、福工大教養力育成センターの楢﨑兼司教授、明治の武田秀西日本支社長が語り合った。
(本文は敬称略)
介護予防 主体性が鍵
―今回のプロジェクトのきっかけとして、楢﨑先生は以前から古賀市の介護予防の取り組みに着目されていたそうですね。
楢﨑 はい。私は現在、福岡県篠栗町と共同で、お年寄りがより健康に過ごせる地域社会にするため、日常生活の改善からできる新しい介護予防の仕組みづくりに着手しています。
介護予防や健康づくりの分野に携わっていて思うのは、これらの活動は人から勧められたからやる、用意してもらったものがあればやるといったように、どうしても受け身、受動的な形になってしまいがちだということです。一方、古賀市では20年ほど前に地域活動サポートセンター「ゆい」ができ、ここを拠点にして現在も、市民の方々が市が推進する運動(家トレ)や鍵盤ハーモニカなど活動を各地域で主体的に取り組んでいます。
今後、高齢化がますます進む中で介護予防を持続可能なものにしていくには、主体性が極めて重要になってきます。古賀市はそこにいち早く気付いて、サービス提供型から主体的な介護予防の伴走支援にシフトしてやってきたというのが先進的だと思います。
専門は身体活動疫学。福岡工業大学社会環境学部教授などを経て2021年4月より現職。
田辺 ありがとうございます。楢﨑先生が話されたように、介護予防の成否は、市民それぞれが主体性を持って日々取り組むかどうかにかかっています。
普段の生活の中では仕事、子育て、親の介護などが優先され、自分の体のことは後回しになりがちです。でも、人間、考え始めれば動くものなんです。その考えるきっかけを設定するのが公助だと思います。
例えば、2014年度に新設した「ヘルス・ステーション」事業では、公民館などを拠点に地域住民が主体となり、健康測定を企画したり、保健師や管理栄養士を派遣して健康相談に応じたりして、市民が自分の体の状況を「見える化」できるようにしました。
古賀市民の健康課題である高血圧や糖尿病を解決するために必要な取り組みを市民と一緒に検討し、「朝食を取る」「減塩」など毎日心がけたいことを掲げた「健康チャレンジ10か条」も作りました。こういうことを続けていると、皆さん、健康づくりを「自分ゴト」として意識してくれるようになりますし、地域の中に「柱」となって主体的に動いてくれる人が必ず出てきます。
毎日新聞記者、福岡県議を経て2018年の古賀市長選で初当選し、現在2期目。
楢﨑 自分にとってのウェルビーイング(幸せで充実した状態)は、人に決めてもらうものではありません。自分なりに定義し、実現するすべを習得して運用していくのが大事です。これは介護予防にも当てはまります。健康や医療に関する正しい知識や情報を入手し、理解して活用できる能力を表す「コンピテンシー」を身に付けることもとても大切です。

家族だんらんの機会
―このプロジェクトの意義は何でしょう。
田辺 行政だけだと知識面などで不足する部分が出てきます。これは大学や企業にとっても言えることで、理念やアイデアを地域社会の中でどう実装していくかという課題に常にぶつかりますよね。それぞれ、あと一歩足りない部分を補完し合えるところに、連携の意義があると思います。そういう意味で、今回のプロジェクトは非常に実効性のある取り組みになると期待しています。
武田 われわれとしては、扱う商品を通して食べ物のおいしさや食事の楽しさを発信することに加え、健康という価値をもっと伝えていきたいと思っています。プロジェクトでは、朝食の習慣化に向けた学校での食育出前授業や栄養セミナーの開催などさまざまな取り組みを用意しています。これらを古賀市や福工大とともに進めていく過程で、市民の健康にどう結び付いているのかを検証して、結果をまた地域に還元していくつもりです。
1983年、明治製菓(現明治)入社。2015年、執行役員就任。21年4月より現職。
楢﨑 先ほども申し上げたように、幸せの価値観は人それぞれですし、ライフスタイルが多様化する中で健康づくりに正解はありません。正解がないものをみんなで考えていい施策にしていかなければならないときに、産学官が知恵や資源を出し合うことが大事で、イノベーションを創出するという意味でも必要なことだと思っています。
―皆さんには今回、はじめに朝食を取っていただきました。鼎談(ていだん)の主要テーマである「朝食の重要性」については、どのように認識していますか。

田辺 いただいた朝食は、どれもおいしかったです。最後にヨーグルトがあったのも良かった。ヨーグルトは忙しい朝でもさっと栄養が取れるし、いろいろな食材とも合わせやすいですよね。わが家では常備しています。
武田 ヨーグルトはわれわれの主力商品の一つですが、手軽に効率よくたんぱく質をとれる食品です。実は、日本人のたんぱく質摂取量は減っており、1950年代と同じくらいまで落ち込んでいるんです。
たんぱく質は体に不可欠な栄養素で、他の栄養素を使って体内で作ることができないので、必ず食べ物でとる必要があります。でも一度に大量に取ればいいわけではなく、1日3回、朝昼晩で取ることが大切なんです。こうした食と栄養に関する正しい情報を伝えることも、メーカーとしてしっかりやっていかなければいけないと思っています。
田辺 朝食の重要性に話を戻すと、子どもの朝食摂取率は、年齢が上がるにつれ低くなっている傾向があります。私も正直に言うと、大学生や社会人になりたての頃は抜いていました。でも、結婚して子どもを持つようになって「それではいけない」と思い直して、あらためてちゃんと取るようにしたら、やっぱり体調もよくなって仕事にも好影響が出るようになりました。
楢﨑 朝食が重要なのは明らかですが、単にエネルギーや栄養摂取という意味合いだけではないと思います。私は90代の母と暮らしていますが、毎日朝食を一緒に取る中で母の様子に変わったところがないかを確認するとともに、親子で大切な時間を紡いでいるんですね。要するに、朝食はコミュニケーションの場としても大事なんです。
共働きが増え、なかなか一緒に過ごす時間が持てない家族でも、朝食のときならだんらんの機会をつくりやすいのではないでしょうか。わずかな時間かもしれませんが、文化的、社会的な意味は大きいはずです。
武田 いろいろな商品を通じて朝食の大切さを強調していくのはもちろんですが、高齢の単身者が増えてきているという現実もあるので、そういった方々にもプロジェクトの中でメッセージを発信していけたらと思っています。
目標は「社会の健康」
―プロジェクトが目指すゴールは。
田辺 行政の立場からすると、お年寄りに健康でいてもらうことが医療費の伸びの抑制につながるという考え方がベースにありますが、それよりもっと前、若いうちからしっかり体を作っていくことが末永い健康につながることを意識して施策を展開していく。その中心に「朝食」を据えるのが今回のプロジェクトです。
キーワードは「全世代型」。地域の中でも世代間交流は希薄していますから、プロジェクトが多世代をつなぐ役割を果たし、一人一人の健康はもちろん、社会が健康になることを目標にしたいです。
武田 食品メーカーとして幅広い商品を取り揃えており、市長が言われた「全世代型」にも対応できる知見もあると思っています。プロジェクトではそれらの強みを生かして食の知識、魅力、大切さを消費者に訴え、浸透させていきたいですね。そして、産官学連携によって地域の皆さんが元気に明るく暮らせる社会を作っていければ、これほどうれしいことはありません。
楢﨑 朝食をメインに置きますが、それにまつわる地元の農業や文化、歴史といった価値を見直すことにもつながると思います。プロジェクトによって、市民が「この街に住んで良かったな」と誇りをもってもらえるようになれば素晴らしいと思います。
今回の朝食メニュー
①ご飯
②みそ汁(大根・ニンジン・サトイモ・油揚げ)
③納豆 ④なす田楽
⑤生卵 ⑥のり
⑦塩さば・キャベツ・トマト・大根おろし
⑧漬物
⑨あまおう(イチゴ)・ヨーグルト
(株)明治の管理栄養士のコメント
「主食、主菜、副菜、乳、果物がそろっている栄養フルコース型の朝食メニューになっていますね。朝に糖質とたんぱく質を一緒にとることで、午前中のパフォーマンスアップにつながります。ヨーグルトは栄養が詰まっている食品ですが、唯一不足しているビタミンCをイチゴで補えています。見た目も良く、1日のスタートである朝から気分の上がる食事だと思います。減塩のしょうゆやみそなどの活用で塩分を控えめにすると、なおいいでしょう」
鬼王荘(古賀市薬王寺81、電話092-946-2517)についてはこちら
今回、朝食・鼎談会場となったのは、四季折々の自然が豊かな山里にたたずむ薬王寺温泉「鬼王荘(おにおうそう)」。地元産の野菜や水を使った食事も人気で、会席、地鶏料理なども提供している。
古賀市と福工大が「仮名加工情報」活用で連携協定
古賀市と福岡工業大学(福岡市東区)は2022年11月、個人が特定されないよう情報を加工した「仮名加工情報」を活用して、行政課題の解決を図る全国初の連携協定を結んだ。
市は今年4月以降、世帯や税などに関する住民情報を匿名化して福工大に提供。同大は人工知能(AI)を使って介護予防や健康寿命の延伸に向けた情報解析を行う。解析結果は、市の施策に反映されるという。
分析を担う同大の馬場謙介教授(データサイエンス)は「データを基にして、将来的に介護が必要になると予測された市民に予防措置を講じることもできる」と話す。