D&Iを重視し、世界に通じる人材育成へ/26年4月、男女共学化の中村学園高
学校法人・中村学園(中村紘右理事長、福岡市城南区)は、運営する中村学園女子高校、女子中学校を2026年4月から、男女共学化する。創設から70年の歴史を超える学園の歩みやこれからの方向性、共学化によって新たに生まれる中村学園高校、中学校の魅力や教育方針、学校づくりについて、中村理事長と石丸篤志校長にそれぞれ語ってもらった。(文中敬称略)
中村紘右理事長「真ん中は人間教育」 ー社会の変化見据える
―中村学園の歩みを教えてください。
中村 中村学園は71年の歴史を誇る学校法人です。教育者や料理研究者としての道を歩んだ学園の祖、中村ハル先生が創設し、1954年に福岡高等栄養学校を開校したのが始まりです。そこから次々と教育施設を造り、現在は大学や短大、高校、中学、幼稚園、給食受託の事業部門を持っています。
―中村ハル先生の創設以来、これまで学園に息づく伝統とは何でしょうか。
中村 戦後の転換期、この先の日本を憂い、60代で自ら学校を立ち上げたハル先生は、これまで多くの言葉を残しました。その一つが「努力の上に花が咲く」です。ハル先生の人生は努力の連続で、努力なくして何かが結実したことはなかった、と後年振り返っています。
もう一つ、「学力の優劣よりも、人物ができていることが基本」というものもあります。私たちは人としてのあり方、「人間教育」を中軸に据えています。 昨年、創立70周年を迎えましたが、これら二つの言葉を踏まえ、「本物を育む。」というスローガンを掲げ、共有させていただいたところです。100周年に向けた理念でもあります。
―一方、時代は令和となり、世界情勢や社会は移り変わりが激しいです。
中村 社会は刻一刻と変化しています。世界ではグローバル化が進み、いろんな国々の人々が日本を訪れる時代になりました。デジタルの領域では生成AIなどが当たり前のように使われています。
70年前と比べると、私たちは全然違う世界を生きていると言えます。本物の人間を育むという根幹の部分は変わらずに継続する一方、変わっていかなければならない部分も明確になっています。それを見据えて現在、大学、短大、高校、中学、幼稚園、事業部門も含め、全面的に学園の改革を進めているところです。
―時代が変化する中、これから学園の教育で重視するものは何でしょうか。
中村 キーワードの一つは「D&I(ダイバーシティ・アンド・インクルージョン)」です。「多様性の受容」とも言われますが、社会が多様になる中、10代のうちにその意識を身に付ければ、正しい価値判断ができる大人になると考えています。
それと、やはり子どもたちにはグローバルな体験を1回でも多く、1分でも長くさせたいです。今は外国人が日本を訪れる機会が増え、逆に日本の子どもたちが海外に行く機会は、円安などの影響でハードルが高いのが現状です。海外に出ることで世界の広さや日本との違い、価値観の差というものを知り、子どもたちには視野を広げてほしいです。
―そのほか学園全体で検討している取り組みはありますか。
中村 「食の中村」として知られる大学や短大では、食の分野の新しい技術やビジネスモデルを学ぶ場を設けることができないか、各学科で議論しています。幼稚園は、最初に少子化の影響を受ける状況にあります。そのため、一人一人の個性にあった成長を促すための幼児教育機関として、より専門性を高めようと検討を続けているところです。
学年の垣根越え清掃
―一連の改革の目玉が、26年4月からの中高の共学化です。共学化に踏み切る経緯を教えてください。
中村 現在、中村学園には女子中学、高校と、男子校である三陽中学、高校があります。一つの学校法人が男子校、女子校を持つケースは全国でも珍しく、これまで、男女別学のメリットを考えた教育に取り組んできました。
ただ、時代の変化とともに学校も変わるべきときを迎えています。本学では、女子教育と男子教育で培ってきた特徴を生かし、多様性の中で育つ新しい可能性を、未来を担う子どもたちに届けたいと考え、共学化という選択をしました。
―共学化によってどんなことを期待しますか。
中村 先ほども述べたように、まずD&Iへの学びが深まることを期待します。性別、世代、国籍、そして価値観など、さまざまな違いを理解してほしいと思っています。
それを深めるための取り組みの一例が、毎日の清掃活動です。普通の学校は、クラスごとに自分たちの教室やその周辺を掃除するのが一般的です。これを新たな学校では、中高6学年という縦割りのチームを作り、校内各エリアに分かれ、清掃していきます。
部活動で異なる学年の生徒が一緒に練習するのと同じように、毎日の学校生活の中でも他学年と交流してもらうための仕組みです。例えば中学1年の生徒は高校3年生から掃除の仕方はもちろん、いろんな会話をしながら、先々の受験の話や、年齢による価値観の違いなどを聞かせてもらえます。 生徒たちはさまざまな場面で「異年齢」というダイバーシティを日常的に経験することで、人としての成長に繋げていくことができます。
海外留学にこだわり
―理事長は先ほども言及されたように、グローバル人材育成への思いが強いですよね。
中村 実は私も中学校で経験した短期留学をきっかけに、高校では長期留学をさせてもらい、大学でも国際的な環境で学びました。多様な価値観を知り、世界が広がることで、母国の素晴らしさや自らの責任にも気付かされます。
現在の女子高校では、語学研修や3カ月以内の短期留学、半年間の中期留学という留学制度も充実しており、新しい学校では、そのようなプログラムも引き継ぎ、さらに発展させることでグローバル人材の育成を目指します。
来年4月に中学校に入った新入生には、英語体験施設に行ってもらう予定です。英語しかしゃべってはいけない環境に身を置いてもらい、そのもどかしさや、新たな学びを身に付けてもらうためです。
最終的には、新たな学校において、子どもたちに短期でもいいから海外に留学してもらいたい。そこからさらに海外に進学したり、海外で働いたりするきっかけになればと考えます。歴史を振り返っても、幕末や明治期などに海外文化との接触や交流によって、日本や日本人は成長を遂げてきました。交わらないと人は変われません。そんな環境を与えてあげたいのです。
本校では今、バングラデシュやフィンランド出身の先生が授業をサポートしてくれています。学校内でこういうバックグラウンドが違う先生たちと話をして世界を理解する、そんな経験もグローバル人材育成や、D&Iの学びにつながるはずです。
「食」の期待にも応える
―そのほか新たな学校でアピールしたい点はどんなところでしょうか。
中村 中村学園と言えばやはり食のイメージが強いと思います。他の学校は最近、食堂の撤退が相次いでいると聞きますが、学園では逆に生徒たちの食を通じた健康づくり、体づくりにさらに力を入れています。事業部門として食堂を運営するノウハウを十分備え、教育機関としても栄養士や管理栄養士を育成しているゆえんです。
新校でも引き続き、単においしさを追究するのではなく、栄養バランスが良い一汁三菜のランチや、部活動に所属する生徒がエネルギーを確保するため開発されたジュニアアスリート向けランチなど、育ち盛りの生徒の健康を気遣い栄養バランスを考えたメニューを提供していきます。
子どもたちの食生活を大切にするご家庭も多いと思いますが、成長期の子どもたちを預けるという意味で、私たちの学校環境は十分期待に添える部分があると思います。
―最後に、新たな中高に入学を希望する子どもや保護者にメッセージをお願いします。
中村 子どもたちが大人になる頃は、今の時代とはまた違った、私たち世代が思ってもみない社会になっているでしょう。中村学園は、その10年、20年先を意識しながら、逆算した学校づくり、教育をこれからもさらに進めていきます。
人間として変わらない部分、社会に応じて変えなければいけない部分など、学園の教育に共感して頂けるのであれば、ぜひ本校で学園生活を楽しんでもらいたいです。これからもいろんなプログラムを用意し、皆さんの選択肢の一つになるよう努力を続けていきます。
石丸篤志校長「興味、関心の種をまく」 ー魅力にあふれる校内
―26年4月に共学化となる中学、高校がある鳥飼キャンパスは施設が新しくて立地が良く、緑も多いです。学校生活のメリットを教えてください。
石丸 まず学校の場所ですが、福岡市地下鉄空港線の西新駅、さらに七隈線の別府駅からも近いです。校舎の前には西鉄バスの停留場があり、バス通学する生徒は降りて1分で校内に入れます。公共交通機関を使う生徒はもちろん、自転車通学の生徒まで、通学に関してはとても便利な環境です。
校舎については2010年に建て替える際、「生徒同士がコミュニケーションを取りやすい」ということもコンセプトの1つとして重視しました。校内の至る所にベンチが置かれ、休み時間にちょっと腰を下ろしておしゃべりするなど、生徒同士が交流できる場がたくさんあるのが魅力です。中庭にもベンチがあり、天気が良ければそこで昼食を食べたり、語り合ったりすることができます。
他校では、式典や集会を体育館で行うところが多いでしょうが、本校には体育館とは別に「講堂」があります。本校では講堂は心を磨く場所、そして体育館は体を鍛える場所として別々にしています。 学校の中心にある講堂は人間教育の場として式典や集会だけでなく、様々な講演会、芸術鑑賞等を催します。
23年度に完成した体育館は、団体競技などが実施できるメインとサブのアリーナを備え、それとは別に多目的ホールや武道場、さらにトレーニングルームも整備しています。生徒たちは各施設で体を鍛えることができます。
―その中学、高校における教育方針や特徴を教えてください。
石丸 生徒が中学から入学して、中高一貫で過ごす場合は計6年間を、さらに大学に進学すれば計10年間を中村学園で学ぶことになります。 そう考えると、中学生の間は、その基礎となる、興味や関心の種をまくことが重要となります。そのため、さまざまな体験を通して、生徒たちが興味、関心のアンテナをいろいろな方向に張り巡らせるような取り組みを行います。
高校生には、これからますます社会が多様化し、複雑化することを踏まえ、決められたレールの上を歩くような人生だけではなく、自分は将来どう生きるのかを、自分のこととして一人一人がしっかり考え、選択してほしいと思います。
そのため高校2年生からは、自分の興味・関心、そして将来像を見据えながら、一部の授業を自ら選択できる仕組みを取り入れています。1年生の間は基礎学力をしっかり養い、2年生進級時に、自らの進路や目標を意識しながら学びを選び取ってもらいます。
中村学園は、幼稚園、中学、高校、大学を持ち、学園内連携ができるのも大きな利点です。代表的なものとして、主に高校生が取り組む「科目等履修生制度」があります。これは高校在籍中に、大学の授業を先取りして受講し、単位取得できる制度です。大学進学後、余裕ができた時間を、留学やボランティア、資格取得など違うことに使えると思います。高大連携だからこそできる大きな特徴であり、共学化によりこの制度をさらに充実させるつもりです。
制服で「自分らしさ」
―共学化によって期待していることは何ですか。
石丸 私が教員生活を続けてきた中で、特に学習面について言えば、女子生徒は真面目にこつこつと勉強を続けて先行逃げ切りのタイプの子が多いという印象の一方、男子生徒は最後の追い込みによってぐっと成績を伸ばす子が見受けられました。
共学になれば、男子の勢いに刺激を受けた女子生徒が、男子に引っ張られてこれまで以上に大きく成長する姿が見られるかもしれない、女子の堅実で地道な姿勢に学ぶ男子生徒もいるでしょう。そんな共学だからこそかなう相乗効果にも期待しています。
そしてこれは教員にも言えることです。中村学園女子中高、三陽中高と男女別学で教えていた教員たちが共学化によって一緒に教えることになります。これまで別学で培ってきた指導の良さを教員同士が学び合い、よりよい教育ができると確信しています。
―共学になることで制服選びも変わるそうですね。
石丸 生徒たちがTPOに合わせて自分の個性を表現し、自由にアイテムを組み合わせられる制服にします。これは多様性を重視する「D&I」を体現した取り組みで、生徒一人一人に自分らしく輝いてもらうためです。
ジャケットやスカート、スラックスなど基本となる制服は当然ありますが、それらと一緒に、既製品のベストやセーター、カーディガン、パーカーを合わせることで、バリエーションは幅広くなります。夏場には男女ともにハーフパンツを選ぶこともできます。
自分の体調や気候を考えつつ、生徒たちが〝決められた通りに着る〟のではなく、〝自分らしく着こなす〟制服になっています。
―現在の中村学園女子中高の施設を使っての共学化になりますが、来年、入学してくる男子生徒には、学校としてどのように配慮しますか。
石丸 男子生徒が参加できる部活動を充実させるつもりです。いま考えているのは、競技人口が多い野球部やサッカー部などです。また現在の体育館やグラウンドの状況を踏まえ、卓球や陸上についても男子部活動として新設する予定です。施設面では、当然ですがこれからの長期休みを利用し、学校内の男子トイレを増やす改修工事を進めます。
視野を広げる学びも
―そのほか、来年4月から新たに取り組むことはありますか。
石丸 共学化を契機に、現在の女子中高で既に試行している「N.Box」を本格拡充させるつもりです。ナカムラの頭文字「N」と、おもちゃ箱をイメージした「Box」で、「中村学園のおもちゃ箱」というイメージでしょうか。
先ほど述べた通り、学校として、早い段階から生徒たちの興味や関心の種をまく、視野を広げることを重視しています。「N.Box」は生徒の知的好奇心を刺激し、学ぶ喜びや楽しみを知ってもらおうと長期休暇中や土曜日、放課後などに開講しているものです。
これまで実施したものには、九州大関係者によるプロジェクションマッピング制作の出前授業や、百均アイテムで楽しむ光通信実験、生徒に人気が高いK―popにちなんだ韓国語講座など、普段の授業とはひと味違う、心躍るユニークなテーマがそろっています。 学校教育ではどうしても教科書を使った勉強が中心となります。それももちろん大切ですが、「N.Box」では大学関係者や社会人らに講師となってもらい、まさにおもちゃ箱のようないろんな学びを提供しています。
共学化する来年は、入学してくる男子生徒の興味や関心が高い内容のものを開講することも検討しています。 新たな学校では、子どもたち一人一人の個性を尊重し、それぞれの夢の実現に向け、全教職員が一丸となりサポートします。本校への入学をお待ちしております。