新たな宇宙ビジネスの開拓をともに/スカパーJSAT、協業へ100億円投資枠設定
1989年、日本企業として初めて通信衛星を打ち上げ、国内において宇宙ビジネスを先駆するスカパーJSATグループ(本社・東京)。新たなビジネスモデルをつくるため、2030年までに100億円を投資し、国内外のスタートアップ企業との協業を加速する。九州では、九州大発の衛星開発ベンチャー「QPS研究所」(福岡市)との連携が一例として挙げられる。同社宇宙事業部門で協業支援に取り組む一柳清高さんに、宇宙ビジネスを巡る環境や秘められたポテンシャルを語ってもらった。

スカパーJSATグループ 宇宙事業部門 投資・協業推進局 アシスタントマネジャー
一柳 清高氏
東北大学大学院修了。2007年、JSAT(現在の「スカパーJSAT」)に入社。静止衛星や衛星通信に関する技術、その運用業務に幅広く携わる。18年から約2年間、内閣府に出向し、宇宙政策立案や民生分野における宇宙利用促進、特に宇宙ベンチャー育成の支援策を担当。22年から約1年間、QPS研究所にも出向して小型衛星運用業務の整備や設備構築を担った。24年7月から現職。
元年から広がる事業
―スカパーJSATのこれまでの宇宙ビジネスの歩みを教えてください。
通信自由化を背景に、私たちの源流となる衛星通信事業者が設立され、初めて民間の通信衛星が打ち上げられた1989年はちょうど平成元年。業界では「衛星元年」とも呼ばれる節目でした。それ以降、私たちは30機以上の衛星を運用、事業を展開し、代表的なものが、96年に「パーフェクトV!」(現在の「スカパー!」)として開始した日本初の有料多チャンネル放送です。
事業は他にも衛星通信があり、災害に強い特長を生かし、例えば災害時に地上回線が途絶している場所でも携帯電話がつながるための回線を提供しています。また、どこにでも通信が提供できる高い柔軟性を生かし、近年は船舶や航空機内の高速インターネット回線を衛星経由で提供しています。
―最近はどんなビジネスがあるのですか。
やはり注目すべきは、衛星データを活用したビジネスです。衛星から地球を観測・撮影した画像データの販売や、そのデータを解析したサービスがさまざまな業界で注視されています。私たちもこの分野に参入し、年々売り上げを伸ばしています。
私たちの衛星データビジネスに関連するパートナーの一つとして、QPS研究所の存在があります。同社が開発する小型衛星には、世界トップレベルの分解能を持つ合成開口レーダー(SAR)が用いられ、夜や悪天候でも地表面を観測することが可能です。
防災や環境、安全保障などの分野で活用されることが期待されており、2021年から同社と事業連携をはじめ、昨年私たちは同社の小型衛星の運用業務を担う契約を結びました。それらQPS研究所の小型衛星から得られる衛星画像データがもたらす将来性に、当社としても大いに期待しています。
変革期の大きな流れ
―今回、スタートアップ企業との協業推進のため、計100億円の投資枠を設けると発表しました。その理由を教えてください。
宇宙ビジネスはいま変革期にあります。当社としても35年にわたる通信関連事業に加え、先ほど述べたように、衛星データに関する事業など、新たなビジネスを開拓しようとしています。
私が入社した十数年前、宇宙関連のスタートアップ企業は国内に10社にも満たなかったものの、現在では100社以上に増加しています。近ごろ投資家や関係者からは、今の宇宙産業が90年代のインターネット産業の黎明期とよく似ていると言われるほど、この産業は大きく発展するポテンシャルがあります。
その流れの中、私たちスカパーJSATは、QPS研究所のような革新的な技術やアイデアを持つ国内外のスタートアップ企業と協業し、新ビジネスを創出したいと考えています。
政府も、国内での宇宙技術の開発と事業化を支援する1 兆円規模の基金を設立し、今後10年間にわたり民間企業や大学などに資金を供給する方針です。宇宙関連市場、宇宙業界が盛り上がることに私自身もわくわくしています。
九州での課題解決へ
―協業を推進するに当たって、スカパーJSATの強みを教えてください。また、九州の企業が協業できる可能性はあるのでしょうか。
私たちの大きな強みは、長年にわたって自ら通信衛星を運用し、さまざまなお客さまにサービスを提供してきた実績です。そこで培ってきた技術力やノウハウ、そして衛星ビジネスのマネタイズには自信があります=下図参照。
九州はもとより地域に縛られず、技術力があればもちろんのこと、斬新なアイデアもあれば私たちが投資し、共に新たな事業を立ち上げられる可能性は十分あります。防災や減災といった従来から衛星サービスが得意とする分野だけでなく、不動産、金融や保険などさまざまな分野で応用するケースが幾つも出てきています。
九州で盛んな1次産業への活用も可能でしょう。例えばドラマでも取り上げられましたが、高精度な衛星測位を使って無人トラクターがセンチ単位のずれを発生させず農地を耕したり、衛星データ解析結果から田んぼの最適な稲刈り時期を水田一枚単位で見極めたりすることができます。
また、衛星データを使えば、海流や海水温を広範囲に上空から把握することもできます。これにより漁業に役立てるだけでなく、貨物船の航路を最適化し、燃料の節約が可能になります。
それぞれの地域で、さまざまな産業・業種の方々が何に困っているか。そういった課題を肌身で理解し、優れた技術やこれまでにない手法で解決に挑むスタートアップ企業と協業したいと考えています。共に社会課題を解決し、いまだ知られていない価値を生み出すために、ぜひ私たちと手を組んでいきましょう。
プロジェクト強力に後押し

QPS 研究所 代表取締役社長 CEO 大西 俊輔氏
私たちは、小型SAR 衛星網「QPS-SAR コンステレーション」の構築を進めていますが、スカパーJSAT はシリーズB 資金調達のリード投資家であったと同時に、衛星データを活用した新サービス開発を目指して業務提携を結ぶなど、プロジェクトを強力に後押し下さっています。
さまざまな宇宙ビジネスを先導する同社との協業は大きな意味を持ち、新サービスの価値をどう最大化していくのか話し合って進められるのも大きな利点です。同社が積極的に推進するスタートアップ企業との協業で、九州でも宇宙ビジネスに取り組む企業が増えることを期待しています。