武雄アジア大学開学記念対談 ~アジアを学び地域の未来の担い手を育む~【 2026年4月開学 】
学校法人「旭学園」(佐賀市)が2026年4月、佐賀県西部地区初の大学として武雄市に「武雄アジア大学」を開学します。アジアの文化を学びながら、地域の課題を見つけ、解決する人材を育成。「リアルな学び」を重んじ、「人間力」を高めることを目指します。
学長に就任予定の小長谷有紀さん自身が、日本からの初の女子留学生としてモンゴルで学びました。そんな小長谷さんが、地域を回り、魅力を伝えるテレビの旅番組に長年取り組む歌手・タレントの前川清さんをお招きし、大学が理想とする人材をどう育んでいくかについて語り合いました。(文中敬称略)
失敗を恐れず、チャレンジ
小長谷 武雄アジア大学は東アジア地域共創学部の下に、観光やまちづくり、地域ビジネスについて学ぶ「観光・地域マネジメントコース」と、アジアのコンテンツやメディアについて学ぶ「東アジア・メディアコンテンツコース」を設けます。
アジアの文化の遺伝子は日本とつながっています。アジアを手鏡にして日本を見つめ直すことで、広い視野で地域の課題や良さを引き出す「まちづくりのプロ」を育成する大学です。観光業やメディア、公務員、コンテンツ産業などで働く人材を育成します。
前川 僕は大学、行っていません。高校も2年の時に中退しました。親父が大工で、昔のことですから雨の日には仕事がありませんでした。だから、いい学校を卒業して安定した大会社に勤めるのが憧れで、それが親孝行だと思っていました。でも挫折しました。けれども挫折したからこそ歌手、芸能人としての道が開け、77歳になる今もテレビに出演する人生を送ることができています。
小長谷 若い頃の挫折の経験って重要ですよね。武雄アジア大学の学生には、人生の実験場としていろんなチャレンジをして社会に出る準備をしてほしいです。学生は失敗しても、失敗が次の成功のもとになります。知識を得るだけだったら動画サイトなどで十分で学校に来なくていい。
まちづくりのプロを養成するのですからリアルな学びを大事にします。人と接し、人と関わる中で学んでいく。それは本来楽しいことですよ、と実感できる大学にしたいです。
前川 人生にはいろんな道があり、前向きに生きることが大事です。若い学生たちが大学で経験を重ねて幅を広げ、人と関わり楽しみながら学ぶというのはとってもいいですね。
小長谷 人と接するのが苦手な学生には読書を勧めます。本には無限の喜びがあり、書いた人はどんな人だったろうと想像し、探究することは、人との出会いと同じようにリアルな学びです。
武雄アジア大学 学長予定者 小長谷 有紀氏
こながや・ゆき 1957年、大阪府豊中市生まれ。京都大学在学中の79年、モンゴルで日本初の女子留学生として学ぶ。81年、京大文学部史学科卒。京大文学部助手を経て、87年から大学共同利用機関・国立民族学博物館に勤務。以来、モンゴル遊牧社会の文化と歴史を幅広く研究してきた。2013年に紫綬褒章、22年にモンゴル国より北極星勲章、24年に英国ケンブリッジ大学よりオノン賞を授与された。
課題を発見し、リアルに学ぶ
小長谷 リアルに学ぶために、国内外の研修やインターンシップの前に、PBL(プロジェクトベースドラーニング)を実施します。PBLとは、いくつかのテーマの中から学生たちが主体的に選択してチームで街に出て探究し、その成果を発表する体験学習です。そうした中で現場を経験してほしい。
佐賀県と武雄市さらに佐賀西部の自治体も、武雄アジア大学というチャレンジングな大学を支援・協力してくれています。学びのプロセスでは100%の成功を強いることなく、風土として若者のチャレンジを受け入れてくれる寛容さがあると思うんですよ。
前川 例えばPBLという学習法で、シャッター商店街が丸ごと、そういう若者の店になれば面白いかもしれませんね。シナリオなしで地域の人々に話を聞いて回るテレビ番組「前川清の笑顔まんてん タビ好キ」(KBC九州朝日放送)をやっていますが、地方の商店街を訪れると、さびれてシャッター街になった所が多いです。
でもなんか違う雰囲気を感じる商店街があります。空き店舗に若い人が入ってきて貸本屋を開いたりとか趣味の店を始めたりとかしているんです。若者の店舗をたくさん集めて実験したらいいかもしれない。
小長谷 それは面白いアイデアですね。
前川 本格的に経営し、利益を出そうとすると苦しくなるけれども、リアルに学ぶという実験ならば大胆にチャレンジできて新しい成功に結び付くかもしれないですね。
歌手 前川 清氏
まえかわ・きよし 1948年、長崎県佐世保市生まれ。68年、内山田洋とクール・ファイブのボーカルになり、69年、「長崎は今日も雨だった」でメジャーデビュー。他に「噂の女」「そして、神戸」「中の島ブルース」「東京砂漠」などの代表曲がある。87年からソロ活動を本格化し、バラエティー番組にも出演。2012年4月から九州朝日放送(KBC)で毎週、放送中の「前川清の笑顔まんてんタビ好キ」は放送14年目を迎えた。
来たれ、ファーストペンギン
小長谷 前川さんの「タビ好キ」を見ていて素晴らしいと思うのは、初対面の方々から本音を引き出す人間力です。地域の課題を見つける学生たちにも身に付けてほしい。私は大学時代の1979年、ソ連がアフガニスタンに侵攻した年、社会主義国だったモンゴルへ留学しました。専攻した文化人類学は、市井の人々を先生として教えを乞う学問で、前川さんの「タビ好キ」と共通するところがあると思います。
人と接するときには「スキル」と「アート」が必要と思っています。スキルは、このルールは守りなさいとか知識として習得できるもの、アートの部分はその人に具わっている資質です。具わっている人は教わらなくても持っています。具わっていなくても経験によって培うことができます。前川さんの人との接し方はとても参考になります。
前川 僕は挫折も含めて、いろんな経験をしてきました。そのことが人との接し方に生きているのかもしれません。
小長谷 私は、アートな部分は、具えている人を、芸を盗むように間近に見ながら真似して会得するのがよいと思っています。学生に教える専任(基幹)の先生24人は、どんな専門でも前川さんのタビ好キのようにフィールドワーク系で、私たちがスカウトしました。研究のために現場へ出て、そこで話を聞いて真実を見つけていくタイプの方々です。
AIは過去に蓄積されたデータを駆使して解を導き出しますが、新たな課題を見つけたり、関係のないものを結び付けて新しいものを創ったりはできません。私たちの学生には現場でそれができる力をつけてもらいます。
前川 地域と一緒に、これから創り上げていく武雄アジア大学ですから、いろんな可能性がありますね。地方に若い人たちがいる、というのはとても大事なことです。地方では息子や娘は都会に出てしまい、お年寄りだけの世帯、孤独なお年寄りが多い。これは深刻な問題です。
お年寄りが若い大学生を食事に誘い、会話を楽しみ、代わりに大学生はお年寄りとドライブしたり、買い物やイベントの送迎をしたりするようなPBLとかもいいんじゃないでしょうか。
小長谷 そうですね。伝統のない新設大学だからこそ、まっさらな未来があります。先生たちは、学生が成長する学びの順番をしっかり構築していきます。武雄アジア大学へ、ファーストペンギンになって、勇気を持って飛び込んできてほしいと思います。